研究課題/領域番号 |
13J09748
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
泉田 勇輝 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 熱機関 / 効率 / パワー / 非平衡系熱力学 |
研究概要 |
本研究の目的は主に従来の熱力学で仮定される準静的熱機関(カルノーの枠組み)を超えて、より現実的な有限のパワー(仕事率)をもつ非平衡蒸気機関(非平衡ランキンサイクル)の数理構造を探ることであり、またそれを通して非平衡系熱力学の構築に新しい視点で迫ることも目標である。 研究初年度である本年度は、来年度以降の研究の指針となる熱機関の最大パワー時の有効仕事に関する一般論の構築に主に取り組んだ。通常、熱機関の理論では高温熱源も低温熱源も十分に大きくその温度変化は無視できると仮定することが多い。一方、熱機関の高温熱源のサイズが有限とみなせる場合は、その温度も変化する。この時、高温熱源の温度が低温熱源の温度と一致するまで熱機関を動かし続けた際に取り出せる仕事の最大値(最大有効仕事)はエクセルギー(exergy)と呼ばれている。これは実際の熱機関においても自然な設定であり、蒸気機関など熱機関の種類に依らず成立する一般的な熱力学的制約である。一方で、熱機関が非平衡状態で動作する際の有効仕事については一般的なことは知られていない。そこで温度差の小さい範囲で成立する線形不可逆熱力学を用いて、熱漏れのない理想的な熱機関では最大パワー時に取り出せる有効仕事が正確にエクセルギーの半分となることを「定理」として一般的に導いた。少なくとも温度差の小さい範囲においてならば、このような一般的かつ熱機関や熱源の詳細に依らない普遍性のある主張が可能となったのは重要な成果であると考えられる。また今後の様々な拡張への第0近似としての役割を果たせる点も意義深い。本研究成果をまとめた論文は米国の速報誌(Physical Review Letters)に投稿し受理された。 また7月から9月の間はスペインのサラマンカ大学の応用物理学部門に滞在して現地のグループと非線形不可逆熱機関に関する共同研究を行った。その成果をまとめた論文は現在準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は本来の計画になかった非平衡熱機関の最大パワー時の有効仕事に関する一般論の構築という大きな成果を上げることができたが、従来の研究計画で想定していた分子動力学法によるシミュレーションのプログラムの作成等が遅れているため。
|
今後の研究の推進方策 |
研究次年度は、初年度に計画していた分子動力学法によるシミュレーションのプログラム作成に重点的に取り組む。その後、完成したプログラムを用いてランキンサイクルの熱力学的相図を描くところまでが当面の目標である。また初年度に構築した非平衡熱機関の最大パワー時の有効仕事に関する一般論のさらなる拡張やその応用も併せて考えていく予定である。また現段階では研究計画にやや遅れがあるが、その内容に関する変更は特に必要ないと考えている。
|