球状トカマク(ST)における低域混成波(LHW)を用いたプラズマ電流立ち上げシナリオを実証するために、誘電体を充填した導波管列アンテナ(グリルアンテナ)を用いた実験を行った。このアンテナでは数kWを超えるパワーを入射する時に60%程度まで反射率が増加することが観測されていた。そこで、グリルアンテナのプライベートリミター内側のプラズマ密度を直接計測するための静電プローブ列を導入したところ、反射率の増加と同時にアンテナ前面のプラズマ密度が減少していることが明らかとなった。 この現象を説明するために、三次元有限要素法に基づいてRF電場を計算し、アンテナの反射率を計算するシミュレーションコードに、ポンデロモーティブ力によるプラズマ密度の変化の効果を取り入れた、非線形シミュレーションコードを構築した。その結果、実験で観測された電子温度の周辺プラズマを仮定したとき、実験と同程度の入射パワーから反射率が増加するという結果が得られた。以上のことから、グリルアンテナの高パワー入射時の反射率の増加は、ポンデロモーティブ力の効果によることが確かめられた。 続いて、励起するLHWの磁場に沿った方向の位相速度を調整することで加熱、電流駆動の効率を変化させられるというグリルアンテナの特徴を生かし、TST-2のプラズマ電流立ち上げに最適な位相速度を探査する実験を行った。LHW電流駆動実験では位相速度の指標としてn_<ll>=ck_<ll>/ωが広く用いられているが、同程度のパワーを入射したときのプラズマ電流値の違い、そしてその時の硬X線放射のエネルギースペクトルの違いから、TST-2では1<n_<ll><6程度が最適であることが明らかになった。また、パワー変調実験の結果からはLHWに加速された電子の大部分がイオンとの衝突による減速を受ける時間スケールに比べ非常に短い時間で失われていることが明らかになった。これは電子の閉じ込め軌道が直接真空容器壁にぶつかり損失してしまうこと(軌道損失)によると考えられる。
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