昨年度までに、枯草菌新規tRNA修飾酵素TmcALを同定した。TmcALはATPと酢酸イオンを基質として、枯草菌のtRNAMetのアンチコドン1文字目のN4-アセチルシチジン(ac4C)修飾形成を触媒する酵素である。今年度は、遺伝学的な解析を行い、tmcAL欠損株が低温感受性を示すことを発見した。また、AUAコドンの解読に必須なライシジン(L)修飾酵素TilSとTmcALの間に遺伝学的な相互作用を見出した。更に、tmcAL欠損株において、tilSの発現を抑制すると、AUAコドン特異的にIleからMetへの誤翻訳が高頻度に起こることを見出した。この事は、tRNAMetのac4C修飾とtRNAIle2のL修飾が協同的にAUAコドンの誤翻訳を防止している事を示しており、本年度の特質すべき成果であると言える。また、生化学的な実験によって、TmcALによるtRNAの識別機構を明らかにした。その結果、伸長tRNAMetの32U/38Cの二つの塩基がTmcALの強い正の認識部位に、開始tRNAMet、tRNAIle2の32C/38Aの二つの塩基がTmcALの強い負の認識部位になっていることが明らかとなった。更に、共同研究によってTmcALとATPとの複合体のX線結晶構造を明らかにした。また、明らかにしたTmcALのX線結晶構造を基に、ATP結合・tRNA結合・二量体形成に重要と思われる残基に関するTmcAL変異体を作製し、反応活性に必要な残基の解析を行った。
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