研究課題/領域番号 |
13J09893
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
張 奕勁 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 遷移金属カルコゲナイド / 電気二重層トランジスタ / 円偏光 / エレクトロルミネッセンス / バレートロニクス / p-n接合 / 両極性トランジスタ |
研究概要 |
本研究の目的はトランジスタ構造を用いた層状物質群、遷移金属カルコゲナイド(TMD)の多様な電子状態の解明と、新たな機能性を考案しスピン・バレートロニクス分野の応用へとつなげることである。3年間の中で様々な種類のTMDの成長条件を探ることから始まり、輸送特性・光物性・スピン物性・バレー物性を包括的に解明することを目指す。本年度の初期計画は単結晶の成長と測定装置の改造である。 結晶成長に関しては、数ある組成のうち特にMoS_2、MoSe_2、WSe_2に関して非常に高品質な単結晶が得られた。これらの結晶を用いたトランジスタを作成し基本的な輸送特性を調べたところ、ホール伝導の誘起が困難なMoS_2に対して、MoSe_2とWSe_2ははっきりとした両極性動作を示した。これはS原子よりもSe原子の方が重いため、結晶中のSe欠陥ができにくいためだと考えられる。 一方、測定装置の改造に関しては、既存の顕微ラマン分光装置に1/4波長板や偏光子を導入し、右回りと左回り円偏光を選択的に導入・測定することを可能にした。また、光学クライオスタットに電気配線を導入し、光物性と伝導特性の同時測定も可能にした。実際に作成した試料を用いての動作実験を行った。具体的にはMoSe_2とWSe_2を用いたFETを利用してTMD内にp-n接合を形成し、電流注入による円偏光発光と電界による偏光制御を確認した。 TMDは現在世界中で研究されており、その中でも本研究は世界に先んじて円偏光発光を実現したことは、当該分野で世界をリードするという点から非常に意義があるものである。さらに、本成果は理論的には予測できないため、TMDの物性の理解を促進するうえでも重要な発見だと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶成長に関しては全てのTMDに対して最適な成長条件を見出すことはできなかったものの、装置の改造は予定通り進展した。一方で、当初の計画には無かった新たな物理現象を発見することができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の研究で得られたTMD p-n接合からの円偏光発光をより詳しく調べる予定である。具体的にはp-n接合の形成条件や印可電圧、温度による発光強度、スペクトル形状、分極率の変化を解明したと考えている。
|