本年度はTMD二次元結晶中に電気的に形成されたp-n接合からの電流注入発光が円偏光している現象の根底にあるメカニズムの解明に向けた研究を行った。この現象は一昨年に偶然発見した新奇な現象であり当時の理論予測と矛盾する現象であったが、理論家の方々とディスカッションを行い、試料中に存在する超強電場が大きな役割を果たしているという結論に至っていた。ただし、このモデルは電流注入発光の円偏光率の印加電圧依存性等一部の実験結果と矛盾する側面もあった。 そこで本年度では、p-n接合の発光状態における電気伝導特性を詳細に測定した・評価した。具体的には、四端子測定法を応用してp-n接合のp領域とn領域、及び接合を挟む領域のそれぞれにおける電圧分布や電荷濃度を測定した。これらの結果を元に、発光時におけるバンド曲がりの位置依存性を再評価したところ、従来型p-n接合で考えられていた状況とは大きく異なることが分かった。しかし同時に、この新たなバンド曲がりの描像と理論モデルを組み合わせることで実験結果を矛盾なく説明することが可能になった。従来型p-n接合と異なる電気的振舞の要因は接合の形成方法の違いに由来すると考えられる。 本研究は層状物質と超強電場を組み合わせることによる新奇な機能性デバイスの実現を目指して開始したものであり、電気的に制御可能な円偏向発光デバイスを実現した。本年度の一連の研究により、この現象は層状物質特有の物性と超強電場のみが実現できる特殊なp-n接合を組み合わせることによって実現できたものであることが分かった。
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