当該年度は3年間の課題の最終年度に当たり、2年間の研究を踏まえた発展的な内容として(1)異方的なバントタッチングのある2次元系、および(2)傾斜したディラックコーンを持つ2次元電子系における長距離クーロン相互作用の解析を行った。対象の系はともにエネルギーバンドの分散関係と、波動関数の幾何学的(トポロジカル)な性質が関連している。結晶の構造に由来する異方性により生じる複雑さを取り込んだ解析を行うことにより、等方的な場合と比較しより豊富で新奇な物性を見出した。 (1)異方的なバンドタッチングのある2次元系における長距離クーロン相互作用の解析。トポロジカル相の相転移の量子臨界点や、黒リンの薄膜、チタン酸化物・バナジウム酸化物の超格子などにおける2次元系では、一方向は線形でもう一方は二次のエネルギー分散関係を持つような異方的なバンドタッチングを持つ電子系が実現する。バンドタッチングの点では、状態密度が消失するため電子間クーロン相互作用が遮蔽されず長距離力となる。この長距離クーロン相互作用の効果を繰り込み群の手法により解析した結果、電子の速度や準粒子の繰り込み因子などのスケール依存性に3つのクロスオーバーがあり、非フェルミ流体としての性質を持つことを見出した。 (2)傾斜したディラックコーンを持つ2次元電子系における電子間相互作用の解析。以前、擬2次元有機導体α-(BEDT-TTF)2I3を対象として長距離クーロン相互作用の効果を調べた際は、非相対論的な範囲で解析を行ったが、今回は相対論的効果までを取り込んだ解析を行い、低エネルギー極限において、無相関時の異方性に関わらず等方的なディラックコーンが現れることを発見した。この性質はディラックコーンの傾斜が大きく、電子・ホールポケットが生じている場合でも成立する。この結果は、低エネルギーにおけるローレンツ不変性の回復の普遍性を示すものである。
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