3年度の主目的は、時間に依存した多成分・多配置分子軌道法を開発し、陽電子対消滅法の要である電子陽電子対消滅機構を動的な視点から解明することである。この対消滅機構を解明するためには、対消滅率や接触密度関数、電子陽電子対分布関数などの高精度評価手法を確立することが必要不可欠である。そこで、本年度は電子・陽電子ダイナミクスの理論構築に取り組みつつ、電子陽電子相関の高精度評価手法の開発と、対消滅率、接触密度関数、電子陽電子対分布関数の評価ルーチンの開発を行い、本研究で開発中の多成分第一原理計算プログラムへ実装した。 まず配置間相互作用(CI)法により、対消滅率と接触密度関数を評価し、平均場(HF)近似と比べ大幅な改善が得られることを確認した。しかしHF法やCI法では、電子陽電子間のカスプの記述が貧しいため、厳密解と比較すると対消滅率の値は、HF法では10%程度、CI法では50%程度と過小評価する結果となった。 そこで、本研究計画にある電子陽電子間距離に顕に依存したガウス型ジェミナル(GTG)関数を用いた多成分第一原理プログラムを開発した。計算においてはGTG相関因子のみならず、電子軌道と陽電子軌道の分子軌道係数を自己無撞着に最適化し、エネルギーとビリアル比の精度を大幅に改善することに成功した。さらにGTG計算において電子陽電子対分布関数を評価した。本研究ではGTG関数を用いているので、厳密には電子陽電子間カスプ条件を満たさないが、GTG相関因子を多項展開とすることで徐々に電子陽電子間のカスプ的挙動が再現されることを確認した。そして対分布関数の原点の値から、対消滅率を算定した結果、厳密解の90%程度の高精度な結果を得ることができた。この他、対分布関数から電子陽電子間距離のn次モーメントを算定し、電子陽電子相関を顕に考慮することで厳密解と比較して良い結果を得た。
|