研究課題/領域番号 |
13J10021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栗原 一徳 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 有機エレクトロニクス / フレキシブル / 医療応用 / 生体センシング / 生体親和性 |
研究概要 |
本研究は将来の長期インプラントデバイス実現を目指し、生体信号センシングデバイスにおける安定性を改善することを目的としている。具体的には非常にやわらかい生体親和性ゲルである環動ゲルでデバイスと生体の間に緩衝層を作製することで、ヤング率と生化学的な反応による炎症作用を抑制する構造を実現するものである。平成25度の目標はゲルを緩衝層とした生体信号センシング用電極の作製と柔軟性をもった有機半導体の増幅回路の集積化を行い、実際に信号増幅の確認を行うことである。 環動ゲルの導電率の測定では、含水率約90%の環動ゲルの導電率は9mS/cmと溶媒の生理食塩水の16mS/cmと比較しても遜色ないことがわかった。含水率を変化させたゲルとの比較から含水率が70%以上となった場合に導電率が大きく向上するという新たな知見を得た。この環動ゲルの機械的強度と伸張性の最適化では、架橋開始剤を1wt%の濃度にした場合、生体と整合性のあるヤング率が100kPa以下で、伸張性も100%以上という良好な特性が得られることがわかった。さらにゲルコートした8cm角の金電極マトリックスでのモデル信号の計測では、絶縁性の生体親和性エラストマーを用いて格子状のバンク構造を作製し電極の分離を行うことで、バンク構造のないものと比較して入力信号を2倍の信号強度で検出できることがわかった。導電性ゲルと柔軟かつ高速で安定な有機増幅回路を接続する実験では、最大増幅率として5Hzで24を得た。これは環動ゲルによるキャパシタ効果を同程度の容量を持つ固体素子のキャパシタを入力としてつないだものとよく一致した。さらなる増幅利得の向上を目指し、入力段を環動ゲルキャパシタと固体キャパシタを直列に併用したところ、増幅利得は9Hzで最大480(=53dB)まで改善することができた。このとき増幅可能周波数は最大で1kHzまで達した。今後は増幅利得とカットオフ周波数の向上が目標となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画通り実験を遂行し、ゲル緩衝層の電気的・力学的な評価と最適化をおこなった。さらに、大面積マトリックスで問題となるクロストークも新規のバンク構造の導入により電極ごとの素子分離ができることが新たに確認できている。有機増幅回路との接続については最大利得ではあるが、53.6dBと現在の無機増幅回路の60dBと同程度のものが得られている。以上のことから生態親和性のゲルを用いた緩衝層作製の基礎技術を確立できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究では、各要素の特性評価にとどまっていた。そのため実際の利用に向けてそれぞれのプロセスが他と整合することを示す必要がある。また、通信用回路との接続など将来的な回路の拡張性を示すことも重要である。そこで今後は当初の予定通り集積化を行っていくことを予定している。まずは増幅回路の多段化ができることを示す。熱圧着など現在の実装技術が有機デバイスにも利用可能であることを示す。これには筆者らの研究室で確立した高耐熱性の有機トランジスタ素子が利用できると考えられる。実装技術の確立という課題の解決は、将来の有機エレクトロニクスの発展において非常に重要な意義を持っていると考えられる。この集積化プロセスと並行して増幅利得の向上を目指す。時間が許すようであれば、さらに多電極化・大面積化にも取り組みたい。
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