前年度までに、α-catenin/merlin複合体の研究において、それらの相互作用領域を特定した。また、相互作用が確認できたタンパク質領域において結晶化スクリーニングを行い、いくつかの複合体結晶を得ることができたが、分解能の改善に難航していた。 本年度は相互作用が確認できた領域のうち、これまで結晶化を試みていなかった領域について結晶化初期スクリーニングを行い、いくつかの結晶を得ることができた。結晶化に用いた溶液で得られた結晶を洗浄し、SDS-PAGEによって複合体であるかを確認した結果、αE-catenin/merlin複合体の結晶である可能性が示唆された。そのため、放射光施設でのX線回折実験を行い、分解能2.5 angstromの回折データを取得した。分子置換法による位相決定、初期モデルの構築を行い、Rwork/Rfree=20.0/24.1まで構造精密化を行った。その結果、結晶の非対称単位中に、2分子のmerlin FERM (19-314)ドメインが存在していた。2分子のmerlin FERM (19-314)ドメインに対して、2分子のαE-catenin由来の電子密度が確認できた。決定した結晶構造から、merlin FERM (19-314)ドメインのサブドメインCに位置するα1Cとβ5Cの間に形成される疎水性の溝に、αE-cateninがβシートを形成して相互作用していた。 結晶構造からα-cateninとの相互作用に重要なmerlinのアミノ酸残基として、疎水性アミノ酸残基Leu297とIle301が示唆された。それらをグルタミン酸に置換したmerlin FERM (19-314) I301E変異体、L297E I301E変異体を調製して、αN-catenin D1ドメイン (1-261) との相互作用解析を行った。その結果、merlin FERM (19-314) WTと比較して、各merlin FERM (19-314) 変異体とαN-catenin (1-261) との相互作用が著しく阻害された。このことから、merlinのLeu297とIle301は、α-cateninとの相互作用に重要な残基として機能していることが示された。
|