本研究は、脾臓の辺縁帯B細胞(MZ-B)によって抗原が濾胞に多量に輸送される生体内抗原輸送機構を利用したがん免疫療法の確立を最終目的とする。本提案は、PEG修飾リポソームの初回投与数日後に投与された2回目投与PEG修飾リポソームが、MZ-Bに取り込まれ、濾胞に輸送されるようになるという研究代表者による発見に基づく。前年度の検討から、空のPEG修飾リポソームによる前刺激と、モデル抗原であるovalbumin(OVA)を封入したPEG修飾リポソームによる免疫を組み合わせて3回免疫を行うことにより、細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導を増強し、OVA発現Tリンパ腫細胞(EG7-OVA)の腫瘍成長を抑制できることが明らかになった。当該年度は、OVAに加えて、α-ガラクトシルセラミド(GC)をアジュバントとして用いて抗腫瘍免疫反応の増強と効果発現の早期化を試みた。OVA/GC封入PEG修飾リポソームを用いて免疫を行ったところ、わずか1回の免疫でCTLの誘導が確認された。さらに空のPEG修飾リポソームを前投与することにより、CTL誘導が増強された。続いてEG7-OVAをマウスに移植した10日後に当該免疫を施し、がんの治療効果についても検討した。OVA/GC封入PEG修飾リポソーム単独免疫群においては、腫瘍移植19日目以降に腫瘍成長抑制効果が観察された。一方で空のPEG修飾リポソームで前刺激した群では、腫瘍移植13日目から腫瘍成長抑制効果が観察され、前刺激がない群と比較して有意な抗腫瘍効果を示した。この効果は、既存のアジュバントを用いた免疫と比較して同等以上であった。以上のように、空のPEG修飾リポソームによる前刺激を行って抗原やアジュバントを濾胞へと送達することにより、がんの予防だけでなく、治療も可能であることが示唆された。
|