細菌の作用により治癒遅延するが、炎症徴候を伴わないため発見が困難な創傷「クリティカルコロナイゼーション」の、客観的同定指標の開発を目的に研究を行った。 前年度の基礎研究及び臨床研究の成果により、滲出液中細胞を対象にRT-PCRを行うことによって、クリティカルコロナイゼーション及び感染創傷のみで高発現を示し、バイオマーカーとして高い有用性が示された6つのヒト遺伝子が得られ、マーカー遺伝子として日本国内での特許出願を完了した。又、国際学会にて口頭発表し、Best Presentation Awardを受賞するなど、国際的にも研究成果を発信し、当研究の新規性が高く評価されたと考える。 当該年度は、マーカー遺伝子群の創傷感染現象における作用メカニズムの解明を目指し、前年度、マーカー探索目的で行った創傷滲出液中細胞の網羅的遺伝子発現解析のデータを用い、全体を探索的に再解析した。クリティカルコロナイゼーション及び感染特異的に高発現する遺伝子群のGO Analysisの結果、神経系関連遺伝子の発現変動の割合が優位に高く、発現プロファイルを俯瞰的に捉えた際、これまで良く研究されている炎症や細胞死関連の遺伝子群の発現変化より劇的であった。 現在ほとんど研究されていない、創傷での感染現象への神経系の関与の実態解明を通じて、病態生理の未解明なクリティカルコロナイゼーションへの理解や、新たな感染制御への戦略について、示唆が得られる可能性が高いと考えた。以上から、感染制御への神経学的アプローチをテーマとした研究計画を応募し、現在までイェール大学医学部神経外科学分野において基礎研究を継続する機会を得ている。 本研究成果は、従来法では不可能だった創傷の同定を非侵襲的方法で実現するのみならず、感染現象の理解や制御を目指す研究に神経学的アプローチという新展開を加えるものであり、更なる今後の発展が期待される。
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