研究概要 |
本研究課題は, 社会性昆虫であるシロアリのカースト分化を対象とし, 同一の遺伝子を持つ個体から異なる表現型が生じる機構を明らかにする事を目的としている. 特に幼形形質を保持したまま生殖腺のみを顕著に発達させる幼形生殖虫と呼ばれるカーストは, 分化の過程で部位の発達と発達抑制が同時に生じていると考えられるが, その至近的な機構は明らかでなかった. 本年度は, まず分化過程の個体を経時的に回収するため, 脱皮前に生じる腸内容物の放出を見分ける誘導系の確立を行った. その結果, 赤い色紙をシロアリに摂食させ, 腹部を染める事で腸内容物の放出を識別する事に成功した. この方法により, 幼形生殖虫に分化する途上の個体を100%の確立で特定する事が可能となった. また誘導開始-腸内容物の放出-分化(脱皮)間のタイムスケジュールも明らかにした。これにより, これまで解析が困難であるとされていたカーストの発生運命の決定時期での解析が可能となった. この事はシロアリのカースト分化の解析に新たな可能性を与える非常に重要な基礎研究結果であると言える. さらに, 分化途上個体を含む幼形生殖虫の分化過程での網羅的トランスクリプトーム解析(RNA-seq)を行った. 上記の誘導系を用いる事で, 幼形生殖虫分化過程の個体を経時的に回収した. 回収したサンプルよりRNAを抽出し, RNA-seqを行うためのサンプル処理を行い, 現在シークエンス待ちの状態である. シークエンス終了後は, 速やかにデータ解析を行い, 幼形生殖虫分化に関与する遺伝子の特定を行う予定である. 加えて, 特定された候補遺伝子についてはRNA干渉法を用いた機能解析を行い, 各遺伝子の幼形生殖虫分化における役割を明らかにする. 以上を遂行する事で, 効率的かつ総合的に幼形生殖虫の分化制御機構を明らかにできると考えられる. 詳細な制御機構が明らかになれば, 社会性昆虫がカーストを獲得した進化的背景の理解にも繋がると予想され, 非常に重要な研究成果となる事が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者はすでに, これまでになかった誘導系を確立し, それを用いてRNA-seqの準備も完了している. また, RNA-seqのデータ解析技術も習得済みであり, シークエンスが完了し次第スムーズに研究を遂行できる. またすでに, 他種での解析も遂行中であり, 研究課題は順調に達成されていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, RNA-seqデータより幼形生殖虫分化に関与する遺伝子を特定し, 解析を進めていく予定である. 申請者はすでにデータ解析技術を習得済みであり, スムーズに解析を進める事ができる. また, 特定された候補遺伝子にっいてはRNA干渉法による機能解析を行う予定である. 以上の実験を遂行する事で, 幼形生殖虫の分化制御機構を詳細に明らかにする. 加えて他種における遺伝子発現解析や機能解析なども遂行し, 共通点や相違点を整理する事で, シロアリの社会の成立・維持機構やカーストが獲得された進化的な背景にも迫りたい.
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