研究課題/領域番号 |
13J10163
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北村 勇吉 名古屋大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 解析的ヘシアシ / 振動数シフト / 振動モード / 溶媒和構造 / 振動スペクトル / pH依存性 |
研究概要 |
QM/MM法での解析的なヘシアン行列を従来法に比べて高速に算出することを可能とするルーチンを開発した。このルーチンを水溶液中グリシン系へと適用し、あらわな溶媒効果による振動数シフトについて調査した。その結果、孤立系から凝集系への変化によって伸縮振動モードは低振動数ヘシフトするのに対して、変角振動モードでは全体的に高振動数へとシフトすることが明らかになった。さらに、詳しい解析を行ったところ、これらの変化は、伸縮振動モードは結合長の伸長、変角振動モードは溶質近傍の溶媒構造形成にそれぞれ起因していることを示唆する結果が得られた。 前述の方法をさらに発展させ、アンサンブル平均されたヘシアン行列から得られる情報(振動数および振動モード)と、ヘシアン行列を逐次対角化し得られた瞬間的な振動数から構成される情報(振動スペクトル)を相補的に用いる振動数解析手法を新たに提案し開発を行った。この手法では、それぞれのスペクトルは、基準振動解析から得られた振動数および振動モードから帰属でき、スペクトル同士の分離も可能である。さらに、瞬間的な溶媒配置と振動数が1対1対応しており、溶媒構造による振動シフトへの影響を明らかにできる。グリシン中の水酸基およびカルボニル基について、水素結合を形成する水分子との距離と瞬間的な振動数との相関を検討したところ、それぞれ正反対の傾向を示した。この原因を明らかにするために、モデル系について自然結合軌道解析による電子状態の変化を調べた。溶媒水分子との分子間水素結合形成によって、水酸基は結合性軌道の電子密度の減少することで低振動側へとシフトした。一方、カルボニル基においては、電子密度自身の変化量は小さいが、軌道間相互作用が増加し、わずかに高振動側へとシフトすることを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
振動数解析法の開発は、当初の計画以上に進展した。また、振動スペクトルの方法論の開発に平行して行っていた定pH法の理論の整理および関連研究調査の結果、プロトン化状態の切り替えを連続的に行うλダイナミクス法の適用が、研究目的を達成するためにはより適切であると考えられるため、当初計画を変更した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、分子動力学シミュレーションパッケージへのλダイナミクス法の実装を行っている。これによって、複数の溶質分子でのプロトン化状態の変化を取り扱いができ、現実に即したpH依存性についての理解が深まることが期待できる。
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