研究概要 |
採用者は、過酸化水素を酸化剤とした選択酸化反応や二酸化炭素固定化反応などのターゲット反応に合わせ原子・分子レベルで活性点構造を制御した、高活性・高選択性金属酸化物触媒の開発を目的として研究を行った。当該年度は、四核ホスホペルオキソタングステート([PO_4(WO(O_2)_2)_4]^<3->, PW4)をZn/SnO_2担体へ固定化したPW4-Zn/SnO_2触媒の調製と、その触媒作用について詳細に検討した。PW4は水溶媒中では二核種との平衡状態にあるため単一種として存在しない。そこで、PW4が単一種として存在するアセトニトリル溶媒中でZn/SnO_2担体上へ固定化することによりPW4-Zn/SnO_2触媒を調製した。PW4をZn/SnO_2に固定化すると、Zn/SnO_2担体表面に存在した<NO_3>^-に帰属される1051cm^<-1>のRamanバンド強度が減少し, PW4前駆体の対カチオンであるアルキルアンモニウムがほとんど検出されなかった。したがって、イオン交換によるPW4の固定化が示唆された。また、PW4-Zn/SnO_2触媒のキャラクタリゼーションからは固定化後もPW4の構造が保持されていることが推定された。PW4-Zn/SnO_2触媒は、過酸化水素を酸化剤としたシクロオクテンのエポキシ化反応に高い活性を示し、その反応速度は22.2 mM min^<-1>であった。この速度は、申請者達が以前に開発した触媒(W-Zn/SnO_2,5. 7 mM min^<-1>)の約4倍であった。さらに、PW4-Zn/SnO_2触媒は、前駆体であるPW4(均一系)の約9倍の反応活性を示し、均一反応系よりも高い活性を示す点で、これまでにほとんど例のない固体触媒であった。反応中に触媒を除去すると反応は完全に停止し、また系中への反応活性種の溶出はなかったことから、PW4-Zn/SnO_2触媒は不均一系触媒として機能していることが示唆された。反応の前後でPW4-Zn/SnO_2触媒のRamanスペクトルにほとんど変化はなく、回収した触媒は活性の低下なく再利用が可能であった。一方、SnO_2を担体として用いたPW4/SnO_2触媒は1-ヘキセンのエポキシ化の反応速度が0.83 mM min^<-1>とZnを添加した触媒(5.8 mM min^<-1>)の1/7程度と小さく、Znの重要性が示唆された。
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