研究概要 |
視覚系は絶対的な輝度に応答しているのでなく, 輝度の時間的・空間的な変化, すなわちコントラストを検出・符号化している. コントラスト検出についての先行研究では, 絶対的なコントラストに応答するメカニズムのみが問題とされ, コントラストの極性には注意が払われてこなかった. だがわれわれは, 絶対値のコントラストが同じでも明暗の輝度極性が違うものは異なるものとして知覚している. 生理学的にも, 絶対的なコントラストに応答するメカニズム以外に, 輝度の増分に応答するオン・メカニズムと, 減分に応答するオフ・メカニズムが独立に存在することはよく知られている. 本研究の目的は, 初期視覚系のオン・オフメカニズムの特性と役割を心理物理学的により深く解明し, さらにそれらの特性が生態学的にどのような意味を持っているのかを解明することであった. コントラスト順応(コントラストの高い刺激に順応した後に提示された刺激のコントラストが実際よりも低く見える現象)を用いて, 順応刺激とその後に提示されるテスト刺激の極性の組み合わせを操作し, コントラスト順応の輝度極性選択性について検討した. その結果, 順応刺激とテスト刺激のコントラストの極性が同じ場合にのみ残効が生じ, 極性が異なる場合には生じないという輝度極性選択性が見受けられた. また順応刺激の極性が負の場合の方が, テスト刺激の極性にかかわらず抑制が強いという極性非対称性も観察された. さらに, 画像の高空間周波数成分の振幅を弱めるとぼけて見えることはよく知られているが, 高周波数成分のコントラストの負値(オフ)を弱くした場合には画像が著しくぼけて見えるが, 正値(オン)を弱くしても画像の明瞭度はあまり損なわれないことがわかった. これらの研究は外部から高く評価されており, Oxford Compendiumに図入りで掲載される予定である. また, 日本基礎心理学会第32回大会において優秀発表賞を授与している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オン・オフ・メカニズムがコントラスト以外の様々な視覚属性の知覚にどのように関わっており, どのような特性を持っているかを整理し, さらにそれらの特性が生態学的にどのような意味を持っているのかを解明するとい目的は, コントラスト順応の極性選択性・非対称性の発見とぼけ知覚におけるオフ・メカニズムの優位性の発見によっておおむね実現されたと考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
前述のように本研究で明らかにすべきことは既に達成されつつあり, かつ国内外の学会での発表も順調に行っている. 今後は, 明らかになったことを原著論文として投稿することを優先したいと考えている. また本研究で明らかになった輝度極性に対する選択性と非対称性について, 今後はその生態学的な起源を見出しさらに計算理論を構築までも視野にいれて研究を推進していきたい.
|