研究課題/領域番号 |
13J10266
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 弘美 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コントラスト知覚 / コントラスト対比 / コントラスト順応 / 画像のぼけ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,初期視覚系のオン・オフメカニズムの特性と役割を心理物理学的により深く解明し,さらにそれらの特性が生態学的にどのような意味を持っているのかを解明することである.既に我々は,コントラスト対比現象(周辺にあるコントラストの高いテクスチャの影響を受けて,中心のテクスチャのコントラストが下がって見える現象)やコントラスト順応(コントラストの高い刺激を見続けたあとに提示される刺激のコントラストが実際よりも低く見える現象)を用いて,これらの現象が輝度(コントラスト)極性に選択的に生じるということを示した.これらの結果はオン・メカニズムとオフ・メカニズムが時間的にも空間的にもそれぞれ独立に相互作用していることを意味している. また我々はぼけの知覚が明暗の極性にも依存するかを検討するため,高周波数成分のコントラストの正値(オン成分)もしくは負値(オフ成分)のみを弱めた画像を用いて,知覚されるぼけの度合いを評価する実験を行った.その結果,オフ成分を弱くした場合には画像が著しくぼけて見えるが,オン成分を弱くしても画像の明瞭度はあまり損なわれないことがわかった.この結果は,視覚刺激のぼけの知覚において,高空間周波数のオフ成分が格別に重要な決定因であることを示唆している. 昨年度5月に上記の研究結果をフロリダで行われた国際学会Vision Sciences Societyにて発表すると,コーネル大学Jonathan Victor先生に大変高く評価していただき,国際誌Vision Researchの特集号に投稿するよう勧められた.論文はすでに受理されており,現在印刷中である.また以前行ったコントラスト順応の輝度極性選択性の研究結果についても執筆を終え,現在国際誌Journal of Visionに投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コントラスト対比における輝度極性選択性に加え,コントラスト順応における輝度極性選択性,極性非対称性や,ぼけの知覚におけるオフ成分(コントラストの負値)の重要性など,次々に新たな発見がなされており,これまで検討されてこなかったコントラスト極性に選択的なメカニズムの特性を解明した. 特に,一般に自然画像の高空間周波数成分の振幅を小さくすることで生じるとされているぼけの知覚がコントラスト極性にも依存するという発見は,国際学会であるVision Sciences Society(VSS)においてはその研究結果をコーネル大学のJohnathan Victor先生に認められ,研究内容を国際誌Vision Researchの特集号に投稿するよう勧められてすでに同誌に掲載されている.また,同研究内容を発表した日本心理学会では1000人を超える候補者の中から優秀発表賞に選出された.コントラスト順応における輝度極性選択性・極性非対称性についても,現在国際誌Jounal of Visionに投稿中である. 上記の研究から,さらにオフ成分(コントラストの負値)が物体の形状認知においても重要である可能性が見出された.この可能性を検討するための実験も,現在進行中である.
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今後の研究の推進方策 |
視覚系は,絶対的なコントラストに応答するメカニズム以外に,輝度の増分に応答するオン・メカニズムと減分に応答するオフ・メカニズムが生理学的に独立に存在することが知られている.生理学的に輝度の増分と減分が分かれているということ,そして我々の発見したオン同士,オフ同士それぞれの相互作用がコントラスト知覚を決定しているという事実は,こうのような処理が生態学的に有利であったためだという可能性を示唆している.同様に,オン・オフメカニズムが生理学的にも心理学的にも非対称である(オフの優位性)ことも,それが生態学的に妥当であったためだと考えられる.この生態学的な起源が自然画像の構造の中に見出せるかを考察するために,自然画像の統計分析と心理物理学実験を組み合わせた研究を進める. 具体的には,自然画像中のオン成分あるいはオフ成分のいずれかをノイズでマスクし,観察者に画像中に特定の物体(例: 動物,家)が含まれていたかをたずねる.あるいは,2つの物体をモーフした画像を用い,画像中のオン/オフいずれかの成分をマスクして,2つの物体のうちどちらが提示されたかをたずねる.もし,人間いとってオン成分とオフ成分の意味または重要性が異なれば,オン成分をマスクした画像とオフ成分をマスクした画像に対する成績が異なるはずである. 今後は上記の実験計画を中心に,実験,研究発表,論文執筆を行う方針である.
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