研究課題/領域番号 |
13J10323
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 有 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2013-04-26 – 2015-03-31
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キーワード | 超新星残骸 / 過電離プラズマ / X線スペクトル / 宇宙線 |
研究実績の概要 |
本研究は、銀河系における高エネルギー宇宙線の加速源として有力な、GeV エネルギー帯域でガンマ線を強く放射する超新星残骸 (SNR) をターゲットとして、X線観測を用いた宇宙線加速の解明を目的としている。 このような SNR として 3C 391 のX線衛星「すざく」による観測データについて、銀河面リッジX線放射バックグランドを正確に評価することで、これまでにない精度でのX線スペクトル解析を可能とした。これにより 3C 391 が、通常進化では得られない過電離という特異な非平衡プラズマ状態にあることを明らかにした。このような SNR プラズマ中の特異な非平衡状態は、全てが GeV ガンマ線で明るい SNR で見つかっていることから、この発見はこれらの相関を示唆する新たな証拠として非常に重要である。その起源としては、親星の超新星爆発が非常に濃い星周ガスに覆われていたことで、爆発初期に高温プラズマを形成、電離が促進されたが、進化の過程でプラズマ温度の断熱冷却が進んだ結果ではないかと結論した。 3C 391 のX線観測から新たに6.4 keV の中性鉄輝線とみられる超過放射の兆候を発見した。このような過電離プラズマをもつ SNR 中に中性鉄輝線放射が混在することは考えられず、加速宇宙線が SNR 周辺分子雲のような冷たい物質を励起した蛍光X線放射なのではないかと結論した。このような放射は、宇宙線加速源における宇宙線のエネルギースペクトル情報を得るために重要である。この発見は SNR 中における加速宇宙線のプローブとしての、中性鉄輝線測定の重要性を観測的に示した意義のあるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
X線帯域での連続放射成分からの宇宙線探査を当初の目的としていたが、バックグラウンドプラズマ等の放射の混入が課題となった。しかし、GeV ガンマ線の強い SNR である 3C 391 の過電離プラズマは非常に重要な発見である。また中性鉄輝線放射の発見は、思いもよらぬ成果として観測的な加速宇宙線探査の研究の発展へと繋がった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、宇宙線加速と SNR における鉄輝線放射の関係性をより深く掘り下げるため、3C 391 同様に GeV ガンマ線で明るい SNR をセレクトし中性鉄輝線の超過放射を探査していく。ただし次期X線衛星 ASTRO-H は平成27年度に打ち上げが延期されたため、本研究における将来計画へ向けた開発作業はウェイトを下げ、今後よりX線衛星「すざく」のデータ解析を重点的に行う。当初 ASTRO-H のために予定していた計算機環境の強化も、観測器のX線応答、天体からのX線放射強度の精確なシミュレーションに計算コストを要するため、研究推進の協力なサポートとして活躍する。
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