研究課題/領域番号 |
13J10344
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三谷 真人 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 液晶 / 刺激応答性発光材料 / オリゴチオフェン |
研究実績の概要 |
液晶性有機半導体は自己組織化によるπ共役部位の集積により異方的で効率的な電荷輸送が可能である。さらに溶媒への高い溶解性を有し、得られる薄膜は均質・柔軟であり高機能性材料として注目を集めている。一方で液体と結晶の中間相である液晶は、外部刺激に応答して配向変化や相転移を示す動的な材料である。しかしながら従来の液晶性有機半導体は電気伝導特性のみを有する静的なマテリアルであり、液晶の動的な性質を利用した液晶性有機半導体は報告例がない。外部刺激により液晶性有機半導体の相転移を誘起することができれば、分子の集合構造変化に伴う劇的な電気伝導特性の変化が達成できると考えられる。本研究の目的は外部刺激に応答して相転移し機能変化するπ共役系液晶材料を構築することである。 当研究室でこれまでに開発されてきた刺激応答性液晶はπ共役部位の両端にかさ高いデンドロン構造を有しており、平成25年度の研究結果からこのデンドロン構造が分子間の効率的な電荷輸送を妨げていることが示唆されている。電子機能の発現のために、まずは分子設計の最適化を行った。具体的にはπ共役部位に導入したデンドロン構造の体積を減らした化合物を設計・合成した。得られた化合物は液晶性および刺激応答性を有しており、液晶相を発現している化合物に対して機械的刺激を印加することで異なる液晶相への相転移を示し、相転移に伴い発光色が変化した。さらに刺激を印加した後、化合物を室温で静置することで徐々に元の発光色を取り戻し、従来の化合物には見られなかった室温における可逆的な発光色変化を示した。しかしながら化合物が示す可逆的応答性のために、刺激印加前後の電子機能性の比較を行うことができていない。今後は刺激印加後に発現する液晶相を安定化するための分子設計を行い、目的としている電子機能性の調査を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的としている電子機能の変換には至っておらず、現在、刺激応答性と電子機能とを併せ持つ分子設計指針の探索中である。しかしながら平成26年度の研究により、従来の化合物とは分子設計の大きく異なる新規化合物が刺激応答性を発現することを見出すことができた。 従来の刺激応答性液晶はπ共役部位の両末端にかさ高いデンドロン構造を有しているが、デンドロン構造が絶縁体部位として働くため、良好な電気伝導特性を発現させるには適していないことが平成25年度の結果から示唆されている。平成26年度に新規に設計・合成された化合物はπ共役部位の両端に導入する機能部位としてかさ高いデンドロン構造ではなく、かさの小さな柔軟な構造を有しているため電気絶縁部位が小さく、π共役部位の電子機能性を引き出す上でより有望であるといえる。さらに、この機能部位を導入しπ共役部位を拡張した一連の化合物も同様に液晶性および刺激応答性を発現したことからも、電子機能性の向上が見込まれる。 新たな機能部位を導入したこれらの化合物が刺激応答性を有することを見出せたことで、今後の研究において更なる発展が期待できる。以上のことから、平成26年度の研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究では、化合物が示す可逆的応答性のために、刺激印加前後の電気伝導特性の比較を行うことができていない。電気伝導特性の比較を行うために、刺激を印加した後に発現する液晶相を安定化するための分子設計を行うことで、室温における自発的な相転移を阻害する。具体的には、π共役部位両端に導入する機能部位の置換基の位置や数を変更した化合物を複数設計・合成する。あるいは、他の液晶性化合物との複合化を行うことで、刺激応答前後の液晶相の安定性を調整する。得られた化合物および複合体については偏光顕微鏡観察、示差走査熱量測定、X線回折測定を用いて液晶性を評価する。更に機械的刺激を印加した後のサンプルについても同様に液晶性を調べ、機械的刺激に対する応答性を調べる。機械的刺激を印加する前後のサンプルについてTime of Flight法による移動度測定を行うことで、相転移前後の電気伝導特性を比較する。分子設計と液晶性、刺激応答性および電気伝導特性との間の知見を集積しつつ、刺激応答性と電子機能性を併せ持つ液晶の開発を進める。その後、得られた化合物のデバイスへの応用を目指す。具体的には基板上に化合物を塗布した後に、外部刺激によりパターニングを施し、パターンに沿った効率的な電荷輸送が可能な分子回路の作製を試みる。
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