研究課題/領域番号 |
13J10353
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 遥介 東京大学, 大学院経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 金融システムの不安定性 / システミックリスク / 複雑ネットワーク |
研究概要 |
金融システムの不安定性、特に、インターバンク市場における信用取引のネットワーク上で、各銀行の財務状況へのショックがどのような条件の下でシステム上の他の要素に伝播し、金融システムの機能不全をもたらすのかについて研究した。インターバンク市場が機能不全に陥るのは、システムを構成する銀行などの金融機関が一斉に機能不全に陥ることが原因である。ここでの機能不全とは、自己資本の毀損や流動性の不足を意味する。本研究では、流動性ショックが信用ネットワークを通して伝播する可能性について分析した。 銀行は、(1)次数 : いくつの銀行と取引関係にあるか、(2)脆弱性 : 流動性ショックによりストレス状態に陥る確率、の二つにより特徴付けられる。流動性ショックが生じるまでの経過時間は指数分布に従う確率変数であり、隣接するストレス状態の銀行の数に依存すると仮定した。 金融システムの安定性を判断するために、ストレス状態の銀行が存在しない定常状態が安定解かどうかを決める閾値を求めた。流動性ショックの頻度パラメーターがこの閾値より小さければ、ストレス状態の銀行が存在しない定常状態が安定、すなわち、金融システムが安定であると判断できる。この閾値は、次数分布と脆弱性に依存する。スケールフリー性より次数分布はべき分布であるので、脆弱性が次数によらず一定であるという仮定の下では閾値が0になる可能性があり、システムの安定性を確保することが難しくなる。一方、次数が大きくなるにつれて脆弱性を十分に小さくコントロールする場合、閾値を0よりも大きくすることが可能であり、システムの安定性を確保することが容易になる。したがって、多くの金融機関と取引関係にある金融機関が、より多くの流動資産を保有することにより、流動性ショックが金融システム全体に波及する可能性を小さくすることができることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
複雑ネットワーク理論の理解に想定以上の時間を費やしたため、研究計画よりも進行がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
銀行のキャッシュフローの変動は、インターバンク市場での信用取引関係によって変化しうる。通常、取引関係にある銀行数が多くなることで流動性リスクの分散が達成されるが、金融危機の際には、同時に流動性ショックが生じる可能性がある。したがって、銀行がストレス状態に陥る確率はこの要素に依存すると考えられる。今後の研究では、銀行がストレス状態に陥る事象を、「流動性ショックのサイズが流動資産の保有量を上回ること」と仮定し、流動性ショックのサイズの確率分布と取引関係にある銀行数、そして、流動資産の保有量との関係を求め、金融システムの安定性を確保するために必要な条件を求めたいと考えている。
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