研究課題/領域番号 |
13J10353
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 遥介 東京大学, 大学院経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 株式市場 / バブル |
研究実績の概要 |
金融市場の不安定性、特に株式市場における価格の変動について研究している。株価はファンダメンタルズの影響を受ける一方で、市場参加者の期待に大きく影響を受ける。私の研究目的は、市場参加者の期待形成がそれぞれ異なる場合、そして市場参加者が互いに影響を及ぼし会う場合、株価やその変動はどのような影響を与えるかを分析することである。 各投資家は資産に関する情報を受け取るが、その情報の価値の大きさは投資家によって異なる。これは公開された情報の解釈の違いを表現する。将来の収益に関する不確実性が大きいほど、この解釈のばらつきは大きくなると考えられる。加えて、投資家の評価は市場参加者全体の平均評価に影響を受ける状況を考える。この効果の強弱によって市場価格のふるまいがどのように変化するかを分析する。 結果として、相互作用が強くなればなるほど投資家の抱く期待が一致し、市場価格がファンダメンタル価値から乖離する。この状況を、ファンダメンタル価値から市場価格が乖離する状況が続くので、バブルが発生していると言える。これらは、市場参加者の相互作用によりそれぞれが同じような期待を形成すると言う点で、群衆行動であると言える。他方で、投資家の解釈の違いが大きくなると期待が一致する効果を弱め、市場価格はファンダメンタル価値の周辺で変動する。以上をまとめると、市場参加者の期待が相互に“強く”影響を及ぼす場合、市場価格がファンダメンタル価値から乖離し、その影響が“弱い”場合、市場価格がファンダメンタル価値の周辺で変動し乖離しない。ケインズの美人投票が示唆するように、投資家が資産のファンダメンタル価値ではなく互いの期待を予想するような状況では、資産価格はファンダメンタル価値に必ずしも一致しないということを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
投資家の期待形成の異質性と相互作用が株価の変動に与える影響を分析してきた。当初は、投資家の群衆行動を引き起こすメカニズムを分析することに加えて、資金調達の困難さやレバレッジなどのように、投資家に対する制約条件を課した状況において、資産価格の変動がどのような影響を受けるかを考察することを計画していたが、十分な結果が得られなかった。これは、数学による扱いの困難さによると考えている。すなわち、多数の主体が相互作用を持つような状況を分析する複雑さに加えて、さらに制約条件を加えることが数学的な扱いを難しくした。この解決方法を模索していたために、計画と比べて進行が遅れてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
『金融市場への統計物理的方法の応用』というテーマに基づき、金融市場・金融システムの不安定性をもたらす原因を分析する。今後の研究では、市場流動性の時間変動について取り扱う。市場で資産の取引が素早く行われ、その取引が価格に与える影響が小さいならば、その市場は流動的である。市場の流動性は時間とともに変化し、金融危機の際には『流動性が枯渇する』と言われるように、価格変動が大きくなり、取引が困難になる。昨今の金融危機以来、市場流動性に関する研究が進められてきたが、私は市場流動性と市場参加者の投資行動の間のフィードバック効果が市場流動性の変動をもたらすのではないかという仮説に基づいて研究する。すなわち、市場流動性が高ければ当該資産は安全であり、その市場は投資家が市場に参加するという誘因を有する。多くの投資家が参加すると取引が容易になり、市場価格の変動性が抑えられる。しかし、何らかのショックが投資家の退出をもたらすと、市場流動性が低下して価格変動が大きくなり、さらなる投資家の退出を引き起こす。このフィードバック・ループが市場流動性の時間変動をもたらし、金融市場の不安定性をもたらす。以上のメカニズムをモデルで記述し、市場価格の安定性を確保するために必要な条件を導きたいと考えている。
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