研究概要 |
再生医療の臨床応用のためには, 細胞源の確保のみならず, 生体組織の機能や構造の再生, また, それを補助し得る細胞培養担体の開発が不可欠である. 組織再生過程での細胞と培養担体との相互作用を理解することは培養担体の開発において極めて重要であり, 培養担体の力学的性質が細胞の増殖や分化に大きく影響することが知られている. 組織再生の評価には生化学的手法が広く用いられている一方, 力学的な視点からの評価は限られている. そこで, 平成25年度は, 細胞と培養担体との力学的な相互作用を可視化し得る, フォルスター共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した力学センサタンパク質の作製及びこのような機能性タンパク質の活性を維持したまま, 三次元培養担体に導入する方法の確立に取り組んだ. 遺伝子組換え大腸菌を用い, 力学センサをリコンビナントタンパク質として作製, 精製し, 溶液状態での励起・蛍光スペクトルの取得を行った結果, 高純度(>90%)のセンサタンパク質が得られ, センサ分子内でのFRETが生じていることを確認した. また, PEG-Cu^<2+>キレート基板へのセンサタンパク質の固定及びアクセプターブリーチングによるFRET効率測定を行い, 基盤に固定された状態でもセンサタンパク質分子内FRETが生じることを確認した. センサ固定基板上に線維芽細胞を播種し, 共焦点レーザー顕微鏡による経時観察を行った結果, 細胞移動に伴い, FRETインデックスが変化する様子を観察した. 一方, 遺伝子組換えカイコによって産生された塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)融合シルクフィブロインを用い, bFGFの活性を維持したままスポンジ状に加工する方法を検討した. 加工過程において使用可能な緩衝液や滅菌方法の検討を行った結果, 線維芽細胞や関節軟骨細胞の増殖を促進するbFGF融合フィブロインスポンジ培養担体を得た. すなわち, 機能性タンパク質の活性を維持したまま三次元培養担体に加工することに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では, 遺伝子組換えカイコを利用した力学センサ融合シルクフィブロインの作製に取り組む予定だった. しかし, 遺伝子組換え大腸菌を利用して, シルクタンパク質の高効率発現及び機能性ペプチドを付加したシルクタンパク質の発現に成功したため, 遺伝子組換えカイコを利用する利点がなくなった. そのため, 平成26年度は, 遺伝子組換え大腸菌を用いて力学センサ融合シルクフィブロインを作製し, 三次元培養担体への導入に取り組む. なお, 遺伝子組換えカイコ株の樹立には少なくとも6カ月は必要である.
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