組織再生過程での細胞と足場材料との相互作用を評価・理解することは再生メカニズムの解明や足場材料の開発に重要な知見を与え得るものの,力学的な評価は限られている.本研究では,細胞―材料間の力学的相互作用を可視化し得る,フォルスター共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した張力センサーの開発を行った.本年度は,センサー固定基板上に播種した線維芽細胞の経時蛍光観察を行い,細胞―材料間の力学的相互作用の可視化に取り組んだ.なお,経時観察中にサイトカラシンD(アクチン重合阻害剤)を作用させ,細胞の収縮を引き起こした.サイトカラシンDの作用により,伸展形状を示していた細胞は徐々に収縮し,最終的に球形となった.アクチンの脱重合に伴い,接着斑が徐々に消失したと考えられる.この過程において,まず,細胞の仮足先端部にFRETインデックスが低値を示す,即ち,強い張力が負荷されている領域が現れた.そして,細胞が球形になるとこの領域は消失した.収縮初期では残存している接着斑に張力が集中するも,最終的に全ての接着斑が消失し,細胞―材料間の張力が検出限界以下となったと考えられる.以上より,張力センサーを用いることで,アクチン細胞骨格の構造変化や接着斑の形成・消失に伴う細胞―材料間の力学的な相互作用が可視化できることが示された. 生体組織の三次元的な機能・構造再生の達成には,再生部への血管誘導が重要である.そこで本研究では,機能性ペプチドの修飾による,シルクフィブロインゲルへの血管誘導能の付加にも取り組んだ.昨年度作製した血管誘導性ペプチドをゲルに修飾した結果,皮下組織においてゲル埋入部に誘導される血管の面積が約2倍に増加した.また,組織染色の結果,血管誘導によってゲル埋入部の組織置換が促進されることが示された.血管誘導性ペプチド修飾シルクフィブロインゲルは,三次元的な組織再生の達成に有用であると考えられる.
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