昨年度までの研究により、Sirt1欠損はユビキチン化タンパク質の蓄積を導き、Hsp70依存的・非依存的な両経路を介したタンパク質品質管理機構の異常を招くことを明らかにしていた。今年度はその詳細を少しでも明らかにすることを目標として研究を行った。 まずは蓄積しているユビキチン化タンパク質の性質の検証を行った。ユビキチンは7つのリシン残基とN末端のメチオニン残基を介してユビキチン鎖を生成し、これらを区別することがその機能の理解に重要である。ユビキチン鎖特異的抗体を用いてSirt1欠損細胞において蓄積しているユビキチン鎖の種類を調べたところ、K48鎖であることが判明した。さらにこれらのプロテアソームとの結合も観察されたため、Sirt1欠損はプロテアソームに分解されるべきユビキチン化タンパク質の蓄積を引き起こすことが判明した。 しかしながら、昨年度までの研究においてSirt1欠損はプロテアソーム活性に影響を与えないことが分かっており、事実プロテアソーム阻害剤であるMG132を添加するとSirt1欠損細胞においてもユビキチン化タンパク質の顕著な蓄積は野生型細胞と同様に観察された。また、細胞内タンパク質分解におけるもう一つの主要な経路であるオートファジーの阻害時にもユビキチン化タンパク質の蓄積が観察されることが知られていることから、オートファジー阻害剤であるBafilomycin A1を用いた実験を行ったところ、本研究で用いているSirt1欠損細胞でのユビキチン化タンパク質の蓄積はオートファジー不全によるものではないことがわかった。 以上の結果と昨年度までのシャペロンの解析より、Sirt1欠損細胞ではユビキチン化タンパク質の分解系ではなく、ユビキチン化される不良タンパク質の生成が亢進している状況であることが明らかとなった。
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