本年度(4~9月)は、昨年度に引き続き、採取したデータをコーディングし、作業がほぼ完了した。また、昨年度に明らかとなった、先行研究との差異を埋めるべく、文献調査と文法記述に時間を割いた。この問題点とは、日本手話の音韻・文法記述が不十分であるせいで、分析がアドホックになってしまうことであった。未発表であるが、発話の収集実験で得たコーパスと、インフォーマント調査から、コーディングルールを見直し、コーディング作業を進めた。また、インフォーマント調査をもとに、知覚表現の文法構造を記述し、分析した。今年度に得られた成果は主に以下の2つである。 1.日本手話の知覚表現の特徴 手話言語の動詞の文法構造は、類像的であるがゆえに、その類像性に左右される。アメリカ手話の動詞の類像性を扱った枠組みと、認知言語学で代表的な虚構移動の枠組みを用いて、日本手話の知覚動詞の文法構造を記述・分析した。手話では、動詞でも、視点の取り方と動きの向きが類像性をのこしたまま表現されるため、動機づけがはっきりと言語内に観察される。結果として、感覚モダリティごとに異なる向きをコード化していることがわかった。 この成果は、9月の日本認知言語学会で口頭発表した。 2. 日本手話の空間表現・触覚表現データのコーディング 先行研究に不足していた類像的な表現の音韻体系の全貌が徐々に明らかになりつつ、過去2年間にわたって育成してきた研究協力者が、細かな部分までデータをコーディングできるようになったので、これまでに取得した実験により得られた発話データを、より客観的な形でコーディングした。これにより、日本手話の談話構造の統計的なデータが得られることになる。
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