研究概要 |
本年度は化学的気相成長法(CVD)におけるグラフェンの成長機構の解明を目指して, 反応系中のグラフェンの光学顕微鏡による直接観察という手法の確立に着手した. 通常は基板である銅箔の上のグラフェンを光学顕微鏡で直接観察することは困難である. そこで本研究では光源から照射した光の反射ではなく, グラフェンおよび銅基板の黒体輻射による発光強度の差を直接捉えるという手法を採用した. グラフェン成長に用いられる加熱炉内を光学顕微鏡で観察しても系全体が放射する赤外線のためにグラフェンを光学的に観察することは困難である. そのため金属箔に銅基板を溶接し, 金属箔への通電により基板のみを加熱して系外から直接観察できる装置を開発した. 原料ガスの組成比, 基板の最高到達温度など条件の最適化と装置の改良を繰り返すことで最終的に数十μmの大きさのグラフェンを成長させ, その過程を光学顕微鏡で観察することが出来た. 本手法の特徴としては, 1秒以下という短い時間分解能, lpxあたりほぼ1μmと可視光の波長に迫る画像の解像度, 単層グラフェンと二層グラフェンを区別出来る厚さ方向の分解能, などが挙げられる. また, 光学顕微鏡という簡便な手法でグラフェン成長のその場観察を実現したことも本研究の成果として特筆すべきである. 本手法を用いて, グラフェンの成長過程のうち特に炭素原子取り込み機構についての考察も行った. グラフェン成長速度は基板温度が高くなるに従って上昇し, 活性化障壁の高い反応が律速段階であることが示唆された. これは特に原料ガスであるメタンの分解反応であると考えられる. 以上に示された成果は, CVD法によるグラフェン成長という広く注目を集めている分野において画期的なものと言える. また, 以上は国内の学会において二件の口頭発表を行った. 現在, 投稿論文の準備を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通電により試料を加熱する装置を作製し, 試料成長条件を探索するという前例なき仕事を行い, 最終的に数十μmの大きさのグラフェンを作製したことは, 課題の推進に向け大きな一歩であると評価できる. また上記の装置によりグラフェンの成長過程を十分な厚さ・時間分解能で評価できた. これは世界的に研究の広がりを見せているグラフェン化学気相成長の分野において広く注目を集める成果であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
装置開発が順調に進んでいるため, 今後は実際に成長機構の解明に取り組む. グラフェン成長の温度・各ガス種の分圧に対する依存性の調査にはすでに着手しており, それらの包括的な考察からグラフェン成長反応の律速段階や反応中間体の推定を行う. また, 原料ガス中の微量な残留酸素などの影響が示唆されており, 系中の酸素濃度を調整できる機構の開発, さらには酸素濃度に対する依存性の調査と機構の考察も進める. 成長機構の解明に進捗が見られた場合は, 加えて窒素ドープグラフェンの窒素取り込み機構についても研究を行う. その場観察を行いながら系中に窒素源となるアンモニアなどを導入し成長様式の変化を調べる. その結果から窒素がグラフェン成長に与える影響とグラフェンに取り込まれる過程を考察する.
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