グラフェンの画期的な物性を産業的に応用するためには,大面積かつ単層の試料を再現性良く得ることが重要である.銅基板上での化学気相成長法はこのようなグラフェンの作製において有利と考えられている.本年度は前年度に引き続きグラフェンの化学気相成長法のその場観察の研究を行い,本研究の目的であるグラフェン化学気相成長法の機構の解明に寄与する結果を得た.また,産業応用に向けて成長条件の最適化の指針を提案した.以下に研究成果の内容について具体的に示す. 本研究ではグラフェンの化学気相成長法の機構解明のために光学顕微鏡を用いた新たなその場観察の手法開発を試みてきた.グラフェンの成長時にグラフェンと銅基板の黒体輻射の強度差に注目するとグラフェン成長のその場観察が可能であることはすでに昨年度に報告した.同時に原料気体であるメタンの流量や基板の温度がグラフェン成長に大きな影響を与えることをその場観察によっても明らかにしてきた.本年度は近年注目されている成長条件である系中に残留している酸素濃度に着目して研究を行った.その結果,系中の酸素濃度が高いほどグラフェンの核発生や成長速度が遅くなる一方で,グラフェンが除去される速度は高くなることが明らかになった.以上の結果を総括し,メタンからのグラフェン成長前駆体の生成と残留酸素による前駆体の消費の競合によってグラフェンの成長様式が決定されるという機構を考察した.さらに考察を進め,グラフェンの化学気相成長法における成長条件としては系中に不純物として存在する酸素の量を確定させた後に最後にメタン流量を決定するべきであるという指針を提案した. 以上の内容は応用物理学会において講演奨励賞を受賞するとともに,Nature Communications誌およびApplied Physics Express誌に掲載された.
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