大型低温重力波望遠鏡KAGRA(旧名LCGT)は、3 kmの基線長を持つ、直交する2つの光共振器の長さの差を測定することで重力波をとらえる検出器となっている。光共振器を構成する鏡は自由質点でなければならないため懸架されており、2つの鏡間の距離変動はレーザー光を往復させることで測定する。光子数の量子揺らぎに起因する散射雑音を抑えるために、往復するレーザー光の強度は最大400 kWにもおよぶ。しかし、大きな光輻射圧によって、鏡の傾きに対して角度不安定性が自発的に生じてしまうという問題があった。そこで、共振器を構成する鏡の姿勢制御方法をレーザー干渉計のシミュレーションとテーブルトップ実験による実証で確立しなければならない。 昨年度は、干渉計と制御系のシミュレーションにより、鏡の姿勢制御に関わる原理的な雑音である散射雑音の評価を行った。その結果、ほぼ要求値を満たす制御方法を見出すことができ、その方法では干渉計の重力波に対する感度を15 Hz 以上の周波数帯域では悪化させないことを示した。 今年度は原理的な雑音以外の雑音を干渉計シミュレーションに加え、より実際的な雑音評価を進めると共に、算出した要求値に基づいて、関係するKAGRA構成部品の設計を進めた。また、テーブルトップ実験に用いる微小鏡の製作を完了させ、その支持方法の詳細検討や真空槽の整備を行った。 原理的な雑音以外の雑音としては、鏡の傾きによって生じた光軸ずれを検出する四分割光検出器の振動による雑音や、光共振器に入射するビームのジッター、鏡の姿勢を制御するためのアクチュエータからの雑音などが挙げられる。それぞれの評価を行い、四分割光検出器の防振機構の設計やジッターを低減させるプリモードクリーナーなどの設計を国立天文台や東京大学宇宙線研究所との共同で行った。
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