研究課題/領域番号 |
13J10395
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
巽 昌子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 処分状 / 日本中世史 / 相続 / 家 / 讓状 / 置文 / 九条家 / 遺誡 |
研究概要 |
本研究課題は「処分状」という文書を軸にして、公家社会における相続の変化や特質について追究することを目的とするものである。具体的には「処分状」を用いた「家」の文書に着目し、時代ごとに生じた「処分状」の変化と相続の在り方との因果関係を明らかにすることを目指している。 研究期間一年目にあたる本年度は、研究目的達成のための第一段階として、相続形態の移行に伴い財産配分の全容を示す「処分状」の役割が衰退していく過程を詳らかにするとの計画の下、研究を進めた。その成果として発表した論文が「九条家の相続にみる「処分状」の変遷と衰退」(『史学雑誌』122編8号、2013年)である。 本論文では摂関家の一つである九条家の事例に着目し、「処分状」固有の役割とその変化を通して、当時の公家祉会における「家」と相続について検討を加えた。その結果、相続形態が諸子分割相続から嫡子単独相続へと移行する中で、財産配分の全容を示す「処分状」の役割が衰退したこと、そして諸子分割相続の段階では役割・形態ともに異なり、区別して用いられていた「処分状」と「譲状」とが同化し、かつて「処分状」に記されていた遺誠が必要に応じて書き残され、置文と称されるようになる過程を明らかにすることができた。これは古文書学的事象について、相続形態の転換という社会的背景から捉えた点において意義があるといえよう。加えて摂関家の分立に対し、九条家の「処分状」を基に迫ることは、今日までに膨大な研究が蓄積されている摂関家やその家領に関して新たな視座からのアプローチを提示する試みにもなった。 さらに次年度の研究の準備段階として、天皇家や摂関家の子息が門跡として入っている醍醐寺や興福寺の考察を始め、研究発表を行った。その研究成果についても、今後論文にまとめ公表する予定である。第二の公家社会ともいうべき寺家社会へ視野を広げることで、研究の一層の深化を目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、日本中世中期以降にみられる「処分状」の変化について考察を行うとの計画の下研究を遂行し、相続形態が諸子分割相続から嫡子単独相続へと移行する中、財産配分の全容を示す「処分状」の役割が衰退していく過程を、摂関家の一つである九条家の事例から明らかにすることができた。これは「処分状」を用いた「家」の文書に着目し、時代ごとに生じた「処分状」の変化と相続の在り方との因果関係を明らかにするという本研究課題の第一段階となる成果であり、目的の達成に向けて研究が順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き「処分状」固有の役割とその変化を通して、当時の公家社会における「家」と相続について追究するべく、天皇家や摂関家の子息が門跡として入っている醍醐寺や興福寺といった寺家社会の相続について考察する。その際には寺院の相続が公家社会から受けた影響や、寺院独自の特質の有無に着目していきたい。第二の公家社会ともいうべき寺家社会へ視野を広げることで、研究の一層の深化を目指していく。 加えて、「家」内部の権力構造について「処分状」という文書を媒介にして捉え直す。これは「処分状」固有の役割に着目しなかったがために、従来明らかにされなかった事柄に考察を加える試みである。これらの研究を以て、「処分状」という文書を軸にした、公家社会における「家Jと相続の特質に関する研究の達成を目指す。
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