細胞の常温保存を可能にする凍結乾燥は、凍結保存に代わる新たな保存方法として注目されている。本研究では、凍結乾燥サンプルの構造崩壊である「コラプス」と呼ばれる現象に着目し、精子凍結乾燥条件の最適化を図った。示差走査熱量計測定により精子懸濁液の作製に広く用いられているEGTAバッファーの最大凍結濃縮相ガラス転移温度(Tg')を測定したところ、-45℃という非常に低い温度であることがわかった。そこでEGTAバッファーからNaClを除去し、さらにトレハロースを添加することでTg'を-28℃に上昇させることに成功した。ウシ精子を懸濁したこの修正EGTAバッファーを予備凍結した後に-30℃で乾燥したところ、コラプスの形成が抑制され、ICSI後の発生率が有意に改善された。 続いて卵子のガラス化保存に関する研究においては、近年我々が報告した、ウシガラス化卵子で多発する星状体形成異常を改善することで、その発生能を改善することを目指した。ガラス化ウシ卵子の回復培養培地に抗酸化剤であるα-トコフェロールを添加して2時間培養したところ、体外受精後に星状体が複数形成されてしまう異常を示す前核期卵の割合が有意に低下した。さらに胚盤胞発生率について調べたところ、その値が無添加対照区と比べて高い値を示した。さらに本年度では、卵子の供給源であるウシ卵巣の冷蔵保存によって、そこから回収された卵子が体外受精後に同様の星状体形成異常を示すことも明らかとなり、成熟培養後の卵子にROCK阻害剤(Y-27632)処理を施すことで、この異常を抑制することに成功した。
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