研究概要 |
イカ、タコに代表される軟体動物頭足類は心臓を3つ持つことが知られている。一つは体心臓と呼ばれるもので全身に血液を送り込むものであり、他の二つは鰓心臓と呼ばれ、酸素を取り込む器官である鰓に血液を送ることに特化している。どのようにして頭足類は心臓を3つ持つようになったのか、その発生学的メカニズムを明らかにし、進化過程に迫ることが本研究の目的である。本研究ではヒメイカ(Idiosepius paradoxus)をモデル動物として用いている。本年度ではヒメイカ胚発生における遺伝子発現解析を中心に行った。心臓発生において重要な役割を果たすことが報告されているNkx2.5, Nkx2.1, Tbx5, Tbx20, Hh, Ptc, Bra, VEGFR, BMP, dHandなどのヒメイカホモログを単離し、whole mount in situ hybridization法によって時系列的な発現様式を調べた。その結果、体心臓、鰓心臓それぞれ、またはどちらか一方で発現すると考えられる遺伝子を単離することができた。この結果から、体心臓、鰓心臓の由来を推定することができた。また、これら各種遺伝子の発現解析の結果を統合すると、ヒメイカでは心臓前駆細胞集団が4つ存在し、その内の二つの集団は正中で融合することで体心臓を、残りの二つの集団はそのまま融合することなくそれぞれが鰓心臓を形成することが示唆された。これをより詳細に検証するために、現在は細胞追跡実験を行うべく実験系の確立を進めている。具体的には、色素注入による細胞ラベル、そしてDNAコンストラクトを導入することによる特定遺伝子の発現追跡を目標として、受精卵への顕微注入の実験系を立ち上げている。
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