幼若期における学習の臨界期に重要な遺伝子を探索し、臨界期の制御メカニズムの解明を目指すことが本研究の目的である。当該年度は、DNAマイクロアレイおよびリアルタイムPCR法を用いて昨年度に行った、臨界期中に発現量が高く、臨界期終了後に発現量が減少する遺伝子の網羅的な探索から選別されたいくつかの遺伝子について、より詳細な発現量変化や発現部位の特定、さらには機能解析を行った。 その結果、刷込み行動の成立に重要であることが分かっている終脳のvisual Wulst(VW)と呼ばれる領域(哺乳類の皮質視覚野に相当)に特異的に発現細胞が観察された遺伝子(遺伝子X)が見つかった。また、遺伝子Xのコードしているタンパク質(X)は細胞から放出され、その細胞のあるいは他の細胞が持つ受容体に結合することで、機能的に働くことが知られており、その受容体はこれまで3種類分かっている。受容体の発現分布を調べたところ、受容体1は脳における発現が観察されなかったのに対し、受容体2は終脳全体に、受容体3はVW領域のほか、刷込み記憶の保存に重要な領域であるIMMと呼ばれる部位に集中して発現していた。これらのことから、タンパク質Xは受容体2および3を介して機能し、刷込みの臨界期制御に関与していることが示唆された。次に、合成したタンパク質XをVW領域に注入し、刷込みの効率や臨界期に変化がみられるかを調べた。その結果、P1のVW領域にタンパク質Xを注入した群では、本来刷込みが起こらない短い時間のトレーニング(10分)で刷込みが成立するようになった。また、臨界期が終了しているP7においても、タンパク質Xを注入した群では刷込みが観察できるようになった。このことは、タンパク質Xの分泌量依存的に、刷込みの成立の効率や、刷込みの臨界期が制御されていることを示している。今回得られた結果をまとめた論文の投稿準備を行っている。
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