あらゆる測定系は、被測定物とプローブから成り立っており、それらの間の相互作用の影響を観測することで様々な情報を取得することが可能となる。レーザー干渉計型重力波検出器においては、懸架された鏡は重力波に対するプローブとして働き、その到来に対し位置の変動という応答を示す。他方、懸架鏡は被測定物でもあり、この場合プローブは鏡に照射されるレーザー光である。重力波によって揺らされる懸架鏡の位置の変動は、鏡表面で反射したレーザー光の位相変動から測定される。
このような測定には、量子雑音限界と呼ばれる測定限界が存在する。本研究ではその一つである量子反作用に注目している。これは、プローブである光の量子揺らぎが鏡に運動量変動を与える擾乱のことである。将来の重力波検出器の感度は、この輻射圧の揺らぎによって制限されるため、その低減技術の確立が重要な課題となる。低減技術検証のためには輻射圧揺らぎに駆動される鏡を用意する必要があるが、それは巨視的なスケールにおいて実現していなかった。また、量子反作用はレーザー光の量子力学的状態を反映するため、これを精密に測定することが出来れば、レーザー光と巨視的な物体(懸架鏡)の量子相関を検出することが可能となる。従って、輻射圧揺らぎの影響は低減されるべき‘雑音’であるのみでなく、懸架鏡を含んだ巨視的な系における量子力学の検証のための‘信号’としての側面も併せ持つ。従って、懸架鏡に及ぼす輻射圧揺らぎの影響を評価することは興味深い。
本年度は、昨年度に引き続き本研究の目標であった輻射圧揺らぎの観測実験を行った。その結果、本測定における本質的な雑音である熱的搖動力の影響よりも、量子輻射圧揺らぎの方が大きくなる測定系を開発することに成功した。昨年度の測定では、その比率は約0.3程度であったが、本年度に実施した装置改良によってその値を約1.4まで上昇することに成功した。
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