研究課題
すばる8.2m望遠鏡と近赤外線高分散分光器IRCSを用いて取得された重力レンズクェーサーAPM08279+5255の分光データの解析を、自身で開発したコードを用いて進めた。わずか0.4秒角しか離れていない近接した2つのレンズ像のスペクトルを、高精度に空間分離して抽出する事に成功した。その結果、80億年前の濃いガス雲によるナトリウム元素の吸収線をそれぞれの像に検出し、その空間構造や化学的特性を詳細に調べた。本研究は国際会議で発表したほか、現在論文にまとめ投稿を間近に控えている。本研究は、遠方ガス雲についてナトリウム元素の吸収線を系統的に調べた初めての研究であり、ナトリウム元素が銀河ディスク中のガスのトレーサーとなる可能性を示唆した。今後の継続的な観測によってナトリウム元素と遠方銀河に含まれるガス雲の関連が明らかになっていく事が期待される。また、当初の目的であった銀河ハロー中のガス雲の空間構造についても、2天体の観測を現在までに終了し、現在も継続して解析を進めている。当該年度においては、これまでの観測で得られた2天体について、銀河ハローガスをトレースする1階電離したマグネシウムイオンによる吸収線が、100億光年以上先という銀河形成期の宇宙において検出していることを確認し、その基本的な性質について調べた。今後の更なる詳細な解析によって銀河形成期における銀河ハローガスの空間構造に初めて迫る事が可能になると期待される。また、東京大学と京都産業大学の共同で開発している近赤外線高分散分光器WINEREDの解析コード開発を主導した。WINEREDは将来的に海外の8-10m級の大型望遠鏡に取り付けられ、従来の装置では観測が不可能であった遠方の暗いクェーサーの高精度なスペクトルの取得を可能にする次世代の分光器であり、将来的に本研究課題を強力に推進する装置である。開発されたコードによって効率的で高精度な解析を実現し、将来的な海外展開に向けた装置の開発をソフトウェア面から押し進めた。
2: おおむね順調に進展している
観測できた天体数が予定より少なくはなったものの、解析については当初の予定通り順調に推移しており研究の進捗はおおむね順調である。
天体スペクトルの解析をほぼ終了しているので、今後は検出された吸収線系の性質やその解釈を進めていく。予定していた天体数よりも少なくなってしまったので、統計的な有意性が想定よりも下がってしまうという問題があるが、適切にその影響を評価して結果につなげていきたい。
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