研究概要 |
水中で金属錯体を安定化させるには多座配位の活用がエントロピー的に有利であるものの、金属中心への電子供与はLewis酸性の低下にも繋がりかねない。そこで平面的な多座配位によって中心金属のd軌道、特にd_z2軌道を制御する事が水存在下での不斉反応の鍵となると考えた。xy方向での混成に加えd_z2軌道と配位子自身のs, p_z軌道との混成、また添加物の配位を通じたz軸方向のエネルギー準位安定化を期待した結果、ビピリジン配住子とLewis酸、添加物から構成される三種類の触媒系を開発し、これまでになく幅広い基質に対し触媒的不斉向山アルドール反応を進行させる事に成功した。三種触媒系の相互補完により、高活性、隣接不斉点の高度制御という利点を活かしつつ、基質一般性に乏しい欠点をも克服する事が可能となった。従来法に多く見受けられる極低温や厳密な無水条件を必要としない事からも、多面的な応用が期待される。従来の不斉ホウ素付加反応で報告されている銅(I)触媒では厳密な無水条件及び強塩基の添加が必須、基質適用範囲は使用する不斉配位子の構造に強く依存していた。開発した触媒系は水酸化銅(II)が効果的、強塩基は不要、これまでになく幅広い基質に対して高収率、高選択性を与えた初めての例でTOFの最高値は43200 h^<-1>を記録した。C-エノラートを経るとされるCu(I)に対してCu(II)ではO-エノラート中間体を経由する事、またJahn-Teller効果によって不安定化されているd_z2軌道の活用が発見の鍵と考えられる。環状ジェノンに対しては均一・不均一2種類の触媒系を使い分ける事により1,4-付加と1,6-付加の選択性がスイッチする。驚くべきことにCu (O)も有効である事が見出され、結果としてCu (O), Cu(I), Cu(II)各々が本不斉反応を触媒しながらも異なる触媒作用を示す極めて興味深い知見に繋がった。
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