平成26年度は、前年度までの成果を踏まえ、さらに広い視野から説話をとらえることを目的として研究を進めた。 1、「重衡被斬」について:これまで、重衡の北の方と近衛家の関係に着目し、「重衡被斬」の成立について考察してきた。今年度においては、説話の成立・流布の過程をより具体的に浮かび上がらせるべく、近衛家の宗教活動や近衛家をとりまく人間関係などを調査した。近衛家や彼らに近い人々の人脈をたどってゆくことで、従来『平家物語』諸説話の成立を考えるにあたってはあまり目を向けてこられなかった人間関係や出来事にかんしても関連性とその重要性を見出すことができたと考えている。 2、土佐守宗実説話について:今年度は、宗実説話の諸本ごとの内容の違いだけではなく、『平家物語』諸本によって異なる宗実説話がそれぞれの『平家物語』においてどのような意味を持つ話となっているのか、特に、平重盛の子である宗実の話が『平家物語』内の小松家に関連する物語にどのような影響を与えるのかという点に目を向け、研究を進めた。諸本を対照し、各本における宗実説話の特徴が『平家物語』全体の流れ、小松家の語られ方とどのような関係にあるのかを分析した。 3、阿波守宗親説話について:前年度に引き続き、宗親説話に関連する話を収録している説話集や、宗親説話と内容や構成が類似する多くの説話の成立や流布の状況を整理し、とくに宗親説話の成立時期について考察を行った。
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