26年度は1).トラザメ胚を用いた肝臓の形成と機能(尿素合成能)獲得時期の同定。2).YSMで発現する糖質コルチコイド受容体(GR)と、そのリガンドである糖質コルチコイドの生体機能への関与を明らかにすること。この2つを目的に研究を実施した。研究の成果は以下の通りである。 1).各ステージの個体を頭尾軸方向に横断面で切り、切片標本を作製した。組織観察の結果、肝臓憩室は早い時期から将来的な組織領域に広がっているものの、ステージ30までの肝臓実質には大きな間隙が存在し、中空である。また、類洞の管状構造も観察されない。一方、ステージ31以降には成体の肝臓で見られる構造物を全て備えるようになり、この時期から肝臓での尿素合成系遺伝子の発現も増大する。これらの結果は「ステージ31まで肝臓の機能は十分でなく、YSMが未発達な胚の機能を補完している」とする仮説を強く支持するものであった。 2).哺乳類培養細胞を用いたレポーターアッセイの結果、コルチコステロン処理によって軟骨魚類GRの転写活性は特に強く亢進された。軟骨魚類では、血中に最も豊富に存在する1a-OHBが主要な糖質コルチコイドであると考えられてきたが、1a-OHBよりもはるかに低濃度のコルチコステロンも、重要な役割を果たしている可能性が示唆された。さらに、in vivoステロイド暴露実験系を確立し、胚を3日間コルチコステロンに暴露することで、いくつかの尿素合成系遺伝子の発現量が変化するという結果も得られた。既に哺乳類では、糖質コルチコイドがGRを介して尿素合成量の調節をおこなうことが報告されており、この機構は脊椎動物を通して保存されていると考えられる。また、これまで軟骨魚類の胚を用いてin vivoでのホルモンの作用を解析した例はなく、この手法は、軟骨魚類の発生過程におけるホルモンの役割を理解する上で非常に有用だと考えられる。
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