研究課題/領域番号 |
13J10583
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐藤 和敏 総合研究大学院大学, 複合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | メキシコ湾流 / バレンツ海の海氷減少 / 北極温暖化 / ユーラシア寒冷化 / 北極層雲 / 中・高緯度相互作用 / 海氷上積雪 |
研究概要 |
本研究では、北極圏の気候システムを支配する北極層雲に焦点を当てている。北極で発生する雲は、太陽放射の反射・散乱や自身の放射する長波放射を通じて地表面熱収支に影響するが、近年生じている海氷減少は雲特性を変化させることで複雑化する。しかし、観測データを用いた研究はほとんどなく、2013年に海洋研究開発機構が海洋地球研究船「みらい」を用いて実施した観測から、これまでの海洋上とはすこし異なった雲特性変化が生じていることを明らかにしたのは非常に重要である。また、「みらい」の航海領域は海氷付近の海洋上であり、他国は海氷上で観測を実施していることから、「みらい」特有の結果が得られた。また、雲特性変化は表面の熱収支を変化させることで、海洋の熱貯蓄量や海氷回復にも影響をもたらす。例えば、2013年に観測された多降雪をもたらす渦の解析は、海洋の塩分にも影響し、秋や初冬の海氷回復にも影響する可能性を示した。 しかしながら、雲特性変化は海氷の減少だけでなく、さらに大規模の大気循環に支配される。例えば、北極圏より南側の中緯度から流入する暖湿流と雲形成は大きく関連しており、これらの変化を理解することも非常に重要である。これまでの研究で、中緯度にあるメキシコ湾流の水温変化が北極圏の大気循環に影響し、北極圏に暖湿な空気をもたらすことで北極の温暖・湿潤、海氷減少を引き起こすことを明らかにした。この海氷減少は、冬期の中緯度寒冷化とも密接に関係しており、中緯度の水温変化が高緯度の海氷減少や雲特性変化、さらに中緯度に影響をもたらすことを示唆した初めての研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの先行研究で議論されていたメカニズムを踏まえ、これまで着目されていなかった海域に着目して北極海の海氷減少をもたらす新たな仮説を打ち出した。この成果は、国内外の学会にて発表を行い、国際誌へ投稿できるまでまとめることができた。そのため、論文投稿や解析を予定より早期に準備できることができ、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、観測データを用いて、北極海の海氷減少に伴う地域的な現象変化に着目する。具体的には、独立行政法人海洋研究開発機構が海洋地球研究船「みらい」やアメリカのCRRELのブイにて観測されたデータを使用する。また、今年度の6月頃にはニーオルスンで実施される夏季期間の雲観測に参加予定であり、さらに北極海広範囲の雲特性変化の理解に期待できる。
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