研究課題
2年目は、再解析データで再現できていない雲や降水システムに着目した。これまで、雲特性の変化についての研究は、再解析データや衛星データを用いた研究が主流であった。しかし、解像度の粗い再解析データや海洋の影響でノイズが入った衛星データでは、下層付近での雲特性変化の議論が十分できていなかった。そこで、2013年と2014年に海洋研究開発機構が海洋地球研究船「みらい」を用いて実施した北極航海の観測データから、海氷上に比べて雲底高度の高い雲や強い降水システムが増加している事を明らかにした。特に、2013年の北極航海では、海氷縁付近で観測を実施し、スケールが非常に小さく、大量の雪をもたらす降水エコーを観測した。この降水エコーは、再解析データでは十分再現できておらず、海氷縁付近で発生する降水システムの構造を把握する事に成功した。「みらい」の航海領域は、海氷縁付近の海洋上であり、耐氷船を用いて海氷上で観測している他国とは異なる環境下で観測を実施していることから、「みらい」特有の結果が得られたと考えられる。その海氷縁付近での降水システムの変化による影響を調べるため、ブイの観測データを用いた海氷上の積雪深変化を調べた。「みらい」が観測を行っているチャクチ海やボーフォート海では、海氷減少で降水量が増加し、海氷上の積雪深が増加していることがわかった。そのため、「みらい」で観測された降水システムが増加し、海氷上の積雪深を増加させていることが示唆された。中緯度からの影響を議論するため、メキシコ湾流の水温分布変化に伴う熱源変動が引き起こす大気応答の影響を調べた。メキシコ湾流の湾軸が北上すると、低気圧の経路が北上し、北極海へ暖かく湿った空気を流入させる。そのため、北極海の海氷上の積雪深が増加するだけでなく、水蒸気が供給される事で雲量が増加していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
中緯度のメキシコ湾流と北極温暖化・大陸寒冷化に焦点を当てた研究を行い、これまで解明されていなかった中緯度海洋が北極海へ及ぼす影響を明らかにした。この成果は、国内外での発表を行い、海外の査読付き国際誌に掲載され、総合研究大学院大学よりプレスリリースを行った。また、メキシコ湾流とは逆に位置する黒潮続流域での降水変化に着目した研究を行い、現在修正版を提出している。さらに、北極海の海氷上の雪についての解析を行い、現在論文の執筆中である。以上のことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
今後は、観測データを用いて、海氷縁付近での降水システムの焦点を当て、海氷生成や成長への影響を調べる。具体的には、海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」に搭載されたドップラーレーダーやラジオゾンデ観測のデータを用いて解析を行う。また、現在解析を行っている海氷上の雪について、海外の査読付き国際誌に投稿を予定している。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (13件)
Environmental Research Letters
巻: 9 ページ: -
10.1088/1748-9326/9/8/084009
Journal of Climate
巻: 27 ページ: -
10.1175/JCLI-D-14-00125.1
Journal of Geophysical Research
巻: 120 ページ: -