研究概要 |
宇宙を構成する元素の起源の解明には、核物理と宇宙物理両方の理解が必要となる。ビッグバン直後、H, He, Liといった軽い元素は合成されたが、質量数Aが5と8の原子核は束縛核として存在しないため、これより重い元素は合成されなかった。このA = 5.8の"ギャップ"を越えて元素が作られる過程は、恒星の中のトリプルα反応が主な経路であると考えられてきた。この反応によって3つのα粒子が反応しA = 12の12C (炭素)が合成される。すなわち、多様な宇宙と生命の誕生の為に、この反応は必要不可欠である。しかし、太古の星(金属欠乏星)の超新星爆発において起こるとされるHeを起源とする爆発的元素合成過程(軽いr過程)では、α(αn, γ)9Be反応(α+α+n→9Be+γ)がA=5.8の"ギャップ"を越えるもう一つの重要な経路となりうることが、近年の理論的研究で示され、注目されている[1,2]。もしこれが事実とすれば、トリプルα反応に代わる新たなバイパスができることになり、元素合成シナリオの大幅な書き換えが必要となる。 我々は、α(αn, γ)9Be反応の実験的測定に先立ち、中性子数20-28領域の中性子過剰核29Ne, 33,35,37Mg, 39,41Siについて、核力分解反応、クーロン分解反応を世界に先駆けて行った。さらにこの実験の詳細なオフライン解析を進め、いくつかの重要な結果を得ている。特に31Me, 37Mgにおける全く新しいp波中性子ハロー構造を発見し、注目されている。これらの成果の一部は、'Deformation-Driven p-Wave Halos at the Drip Line : 31Ne″というタイトルのレター論文としてアメリカ物理学会のPhysical Review Letter誌に受理された。また、イタリア・フィレンツェで行われた国際カンファレンス(INPC2013)、千葉で行われた国際カンファレンス(APPC12)において口頭発表(英語)を行い、それぞれ高い評価を得ている。
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