研究課題
本研究は、変異型SOD1とDerlin-1の結合を介した小胞体ストレスの誘導によるALS発症メカニズムに基づいている。そしてタンパク質間の相互作用を阻害する低分子化合物を見出し、ALS発症機構の解明に向けた研究の更なる発展と、ALS治療薬の開発に繋げることを目指している。昨年までに、TR-FRETの原理を利用して、洗浄・分離の操作が不要なSOD1-Derlin-1結合評価系を確立することで、結合阻害低分子化合物を獲得するためのハイスループットスクリーニング系を立ち上げ、約1万化合物に対するパイロットスクリーニングを実施した。今年度は、本学創薬オープンイノベーションセンターが保有する約16万化合物に対する大規模スクリーニングの実施に成功した。パイロットスクリーニング、大規模スクリーニングを合わせ、TR-FRETによるアッセイによって得られたポジティブ化合物に対し、別の検出系である共免疫沈降法における結合阻害効果の検証を行うことで、19個の候補化合物を得ている。また、こうして絞り込んだ候補化合物に対し、その構造類似体についての結合阻害効果の検討を行うことで、より阻害効率の良い化合物を見出した。この検討により、化合物の構造と阻害活性の情報が明らかとなり、構造展開による新規化合物の創出につながるデータが得られた。さらに、細胞培養液中への化合物添加により、細胞膜透通性をもち、細胞毒性が見られない化合物が得られていることも確認された。同時に、この化合物が複数種類の変異型SOD1とDerlin-1の結合を阻害することも明らかとなった。今後は、初代運動神経細胞の培養系を用いて、変異型SOD1や他のALS原因遺伝子変異による運動神経細胞死が、結合阻害化合物の添加により抑制されるかを検討し、ALSモデルマウスへの投与実験により症状の緩和・軽減がみられるか検討する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
パイロットスクリーニングに次ぐ大規模スクリーニングを実施し、異なる実験系において得られた候補化合物の結合阻害活性の確認を終えた。さらに構造類似体の評価を行うことにより、構造展開に向けた情報を取得した。また細胞培養液中への化合物添加により、細胞膜透過性や細胞毒性の有無とともに結合阻害効果の検討を行い、細胞内において結合阻害活性を示す化合物が得られていることが明らかとなっている。
今後は、より阻害効率や膜透過性、安定性、特異性が良く、細胞毒性が少ない化合物を得るため、構造展開による新規化合物の取得を目指す。得られた化合物がSOD1のホモダイマー化や抗酸化活性、Derlin-1のERAD機能に与える影響を検討するとともに、化合物にビオチン化修飾を施し、細胞溶解液を用いてpull downすることで、化合物のターゲット及び結合特性を明らかにする。そして、初代運動神経細胞の培養系を用いて、結合阻害化合物の添加により変異型SOD1や他のALS原因遺伝子変異による運動神経細胞死が抑制されるかを検討し、ALSモデルマウスへの投与実験を開始する。
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実験医学増刊「研究成果を薬につなげるアカデミア創薬の戦略と実例」
巻: 32(2) ページ: 293-298
Molecular Cell
巻: 52 ページ: 75-86
10.1016/j.molcel.2013.08.038.