研究概要 |
コンタクトコールとは, 集団で生活する動物がお互いの居場所を把握するために出す音のことである. いくつかの動物はその音に「個体差」を持っている. ここでいう「個体差」とは, 発声器官の形態の違いに起因するものである. ところがハンドウイルカでは, 「個体」を示す音声パターン(シグネチャー)を学習によって獲得する. つまり彼らは声の違いとは別の名前のようなものを使っているということである. なぜ彼らはシグネチャーを持つ必要があったのか, これを理解するためには進化過程を辿っていく必要がある. しかし, これまでのイルカのコンタクトコールの研究はハンドウイルカに偏っており, 種間の比較がほとんど行われていない. そこで本研究では, シロイルカとカマイルカのコンタクトコールについて調べる. 平成25年度はシロイルカの鳴音収録を行った。イルカのコミュニケーション鳴音には, ホイッスルとバーストパルスの二つのタイプがある。ハンドウイルカはホイッスルに個体情報を載せている。一方, シロイルカではある種のバーストパルス(PS1 call)に個体差が見られると近年報告された(Morisaka et al.,2013). そこで, シロイルカのPS1 callのデータを収集し, より細かな分析を行った. 名古屋港水族館の5個体と, 横浜八景島シーパラダイスの4個体を1頭ずつ隔離して, 2013年9月-2014年3月の期間で断続的に収録した. 名古屋港では, PS1 callのさまざまな音響パラメータについて分析した結果, パルス間隔と周波数特性に個体差が見られた. したがって, それらの両方, もしくはどちらかに個体情報を入れている可能性がある. また, 鳴音全体の3割をPS1 callが占めており, 最も発声頻度の高い鳴音であることが分かった. シーパラダイスでは, 音源定位が難しく, 隔離個体の鳴音を抽出することができなかったが, PS1 callを使った鳴き交わしが観察されたため, シーパラダイスの個体もPS1 callをコンタクトコールに使っているという可能性を示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ハンドウイルカの先行研究では, 個体を隔離するとコンタクトコールを頻繁に出すと言われていることから, 本研究でも個体を隔離して鳴音収集を行ったが, シロイルカは予想以上に1回の収録の鳴音数にむらがあり, 回数を重ねないと鳴音データ数を増やすことができなかったため.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では, シロイルカへのプレイバック実験(仲間のコンタクトコールと他のグループの個体のコンタクトコールをスピーカーから聞かせ, それに対する反応の違い見る実験. PS1 callに見られた個体差が, シロイルカによって認識されているのかどうかを明らかにすることができる.)を2年目, カマイルカへのプレイバック実験を3年目に予定していたが, プレイバック実験の前に複数のグループの個体から鳴音収録を行い, 各個体から多くのPS1 callを集め, 個体内のヴァリエーションも見なければならない. したがって本年度はシロイルカとカマイルカの鳴音収録を重点的に行う. また, プレイバック実験の対象はシロイルカに絞り, 3年目にまわす.
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