動物が群れを維持するために鳴き交わす音をコンタクトコールという。ハンドウイルカはコンタクトコールに個体情報を含ませており、名前のような機能を持たせている。この機能がどのように進化したのかを探るためには、種間比較が必要である。そこで本研究ではシロイルカとカマイルカのコンタクトコールを調べる。平成25年度は名古屋港水族館のシロイルカを調べた。隔離状態において各個体がある種のパルス列(PS1)を頻繁に出すこと、PS1の様々な音響パラメータに個体差があることを明らかにした。特に各パルスの時間間隔の変化(IPIコンター)は、1歳の個体を除くと個体特有で定型であった。 平成26年度は、しまね海洋館アクアスのシロイルカを調べ、PS1の特性が飼育個体に共通するものなのかを調べた。PS1は頻繁に鳴き交わされており、個体差もあり、IPIコンターも各個体定型であった。0歳の個体はPS1を出さなかった。これらの結果から、シロイルカはPS1をコンタクトに用いていること、IPIコンターに個体情報を付加している可能性が高いこと、PS1の獲得には音声発達が関係していることが明らかとなった。 さらに海遊館でカマイルカの鳴音収録を行った。数個のパルス列から構成されるパターンを頻繁に鳴き交わしており、孤立時にはその鳴音が多く発せられた。このことから、カマイルカはパルスパターンをコンタクトに用いている可能性が高いことが分かった。 平成27年度は、PS1に見られた個体差がシロイルカの知覚レベルにおいても機能しているのかを調べるため、プレイバックシステムを構築し、名古屋港でプレイバック実験に挑戦した。その結果、対象個体はしまね海洋館の個体(よそ者)のPS1よりも、名古屋港の個体(仲間)のPS1に僅かではあるが強い反応を見せた。今後もプレイバック実験を行っていく必要がある。またこれまでの研究を学術論文、博士論文にまとめた。
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