研究概要 |
低環境負荷エネルギーとして水素が注目され、水素貯蔵媒体として水素吸蔵金属の開発が求められている。バルクPdは高い水素吸蔵特性を示すが, バルクPtは水素を全く吸蔵しない。近年、水素吸蔵特性の改良を狙って、山内らによってPd, Ptナノ粒子が合成された。Pdナノ粒子は, 期待と裏腹に水素吸蔵特性の低下を招く。一方、Ptはナノ粒子化により水素吸蔵能を示すようになる。これらは、ナノ粒子化によって電子状態が変化したことを示唆する結果である。初年度は、Pd・Ptクラスターに対する水素吸蔵特性の違いを量子化学計算により解析し、その結果を報告する。 本研究では立方八面体のM_<55>クラスター(M=Pd, Pt)をモデルとして、PBEレベルの密度汎関数計算を行った。Pd, Ptクラスターと水素原子の相互作用エネルギー解析の結果、①(111)面からの水素吸蔵が(100)面からの水素吸蔵よりエネルギー的に有利であること、②Pd_<55>の方が安定な水素吸蔵ポテンシャルをもち水素吸蔵に有利であること、③Mss (M=Pd, Pt)いずれについても、クラスター内では八面体サイトが最安定サイトであることの3点が明らかになった。 更にPd_<55>とPt_<55>に対する水素原子の安定性の違いの起源を探るために、先のPd_<55>, Pt_<55>内の水素原子が存在する八面体型サイトを抜き出したモデルについてエネルギー成分分割解析を行った。その結果、PtクラスターはPdクラスターに比べ交換反発エネルギーが大きく、これがPtクラスター内の水素原子の不安定化の主要因であることが明らかになった。Electron localization function (ELF)の解析結果は、Pt系で見られた大きな電子間反発は原子価5d軌道の相対論的膨張によってもたらされたものであることを示す。クラスターの電子状態が、水素吸蔵特性を制御していることが分かった。
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