本研究の目的は、ガンマ波発生時における一次視覚皮質の神経細胞の活動様式を明らかとすることである。前年度までの研究において、我々は1 msの単純なフラッシュを視覚刺激として用いてガンマ波を誘導することで、マウスの視知覚が調節されることを明らかとしてきた。しかし、ヒトにおいて同様の調節機構が働いているかは不明である。 そこで、我々は、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用いてヒトにおける神経活動を間接的かつ非侵襲的に記録し、視覚刺激(テスト刺激)に対するfMRIシグナルを測定した。そして、直前のフラッシュ刺激によるガンマ波の誘導が、fMRIシグナルに与える影響を検討した。その結果、直前のフラッシュ刺激とその後のテスト刺激がもつ視覚情報が一致している場合に、有意にヒトのfMRIシグナルが増大することが明らかとなった。一方、両刺激がもつ視覚情報が異なる場合においては、fMRIシグナルの増大は観察されなかった。次に、今回観察されたfMRIシグナルの増大によるヒトの視覚機能への影響を調べるために、テスト刺激に対する検出能力(視覚検出力)を測定した。そして、直前にフラッシュ刺激を与えることで、視覚検出力が調節されるかを検討した。その結果、fMRIシグナルの結果と同様に、直前のフラッシュ刺激とテスト刺激がもつ視覚情報が一致する場合においてのみ、視覚検出力が有意に増大した。 本研究は「ものの見え方は常に一定ではなく、直前に見たものによって見え方が変化する」という全く新しい概念を提唱する知見である。動物がものを見る際、多くの視覚情報が次々と視覚野に入力される。これに対応するために、視覚野には同じ情報を増強して下流に伝えるシステム、すなわち情報のフィルタリング機構が存在すると考えられる。そして、重要な視覚情報を増幅することで、視覚の認知を効率的に行っていると考察できる。
|