研究課題
植物は環境ストレスを感知すると、一酸化窒素(NO)を生成して細胞内酸化還元状態(レドックス)の変化を誘導する。近年、細胞内酸化ストレスはタンパク質の翻訳後修飾を誘導することが示唆され、特にNOによるS-ニトロソ化は、環境応答における主要制御因子の活性調節を行うことが報告されている。これまでに申請者は、344の病害関連転写因子群に対してS-ニトロソ化感受性の有無を調査し、WRKYはレドックス応答性転写因子群であることを明らかにした。そこで平成25年度では、植物におけるレドックス認識機構の解明を目的として、NOのWRKYによる転写調節機構に与える影響を検討した。NOは、植物ホルモンの一つであるサリチル酸(SA)の合成経路を活性化してSA応答性遺伝子発現を誘導することが報告されている。そこで、SA合成酵素であるICS1のプロモーター上に存在する6つのWRKY認識配列(W-box)と全WRKYタンパク質を用いて相互作用の有無をスクリーニングした。その結果、SAシグナルのリプレッサーとして機能するWRKY転写因子群がICS1のW-boxに結合することを明らかにし、S-ニトロソ化されたWRKYはW-box結合能が阻害されることを確認した。さらに、WRKYのDNA結合ドメイン内の保存された2つのシステイン残基がS-ニトロソ化される重要候補側鎖であると示唆されため、WRKYの候補システイン残基をアラニンに置換した組換え植物を作出中である。一方、NOはSAシグナル伝達系の鍵転写補助因子であるNPR1の活性化にも必須であることが明らかになっている。そこで、NPR1による標的遺伝子の発現制御機構の解明も試みた。疾病防御応答時に発現誘導が認められる344転写因子に対してNPR1との相互作用の有無をin vitroで検討した結果、SAシグナルを負に制御する新奇NPR1結合転写因子を多数同定した。
1: 当初の計画以上に進展している
SAシグナルの鍵制御因子であるNPR1の機能を明らかにするために、独自に構築した無細胞タンパク質合成系を用いて、シロイヌナズナの転写制御因子を網羅的に合成し、NPR1の標的転写因子の同定を行った。また、NPR1と結合転写因子が直接的かどうかを検討するために、BiFCの準備を進めており、計画以上に進展していると考えている。
1. WRKYのS-ニトロソ化感受性候補システイン残基をアラニンに置換した組換え植物を作出し、病原菌を接種することでその表現型を評価する。さらに、S-ニトロソ化がWRKY転写因子群のDNA結合能に与える影響を検討するために、作出した変異体にNOを処理しChIP-PCRを行う。2. NPR1がSAシグナルのリプレッサーに与える影響を検討するために、野生型植物又はNPR1欠損変異体を背景として当該転写因子の過剰発現体を作出する。本植物にSAを処理し、経時的に採取したサンプルを用いてマイクロアレイ解析及びChIP解析を行う。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
10.1073/pnas.1321669111
化学と生物
巻: 51 ページ: 728-729