これまで高速での引きずり抵抗実験は難しく、障害物を粉体層に落下衝突させ画像解析による間接的な抵抗力の算出が主流であった。しかしこの方法では重力など他の寄与を無視できず(残念ながら3次元粉体に働く重力は水圧ほど単純ではない)、さらに衝突中の流れ速度は常に変化する。我々の独自の2次元実験は重力の影響を取り除き、定速度での直接計測を可能にするものである。2次元系での実験によって粉粒体媒質密度を自由に変化させることが初めて可能となり、ジャミング転移密度近傍での引きずり抵抗実験が実現した。 新しい臨界現象の発見 : 本研究により可能となったジャミング転移近傍での実験では、初めての臨界現象を観測した。あらゆる物理量(抵抗力の構成要素である動的項および静的項、さらには抵抗力全体の揺らぎの大きさ)がジャミング転移密度に向かって発散するのである。密度を変化させた際の抵抗則動的項の係数は、ジャミング転移臨界点(84.1%)に向かって抵抗力が発散し、その際△φが持つ臨界指数は-1/2となる。そして、この実験から求めた指数-1/2を理論的に説明することにも成功した。我々は、抵抗則の障害物サイズ依存性についての先行研究のなかで"障害物が粉粒体クラスターと衝突する"理論を提案していたが、密度の上昇に伴いそのクラスターサイズが-1/2乗で発散することを幾何学的に導き、その結果として抵抗則の臨界指数-1/2を説明することに成功した。 以上の成果を国際学術誌Phys. Rev. Lett.誌に発表し、有限温度においてジャミング転移点以下での粘性および降伏応力の上昇を示す今回の現象結果は、ガラス転移研究において重要になることが期待されている。さらに、本研究のように局所的なジャミング領域が動的に成長する概念は、近年注目を浴びるアクティブマターなどの文脈へも適用の可能性を秘めている。
|