研究概要 |
私は, ALS病因としてのSOD1-Derlin-1結合阻害物質を運動神経に特異的に発現させるための系の確立, およびその系を用いたモデルマウスの病態改善を目指して研究を遂行した. アデノ随伴ウイルス(AAV : adeno-associated virus)ベクターを用いてALSモデルマウス(家族性ALS関連変異型SOD1のトランスジェニックマウス)の運動神経にCT4ペプチド(Derlin-1のC末端12アミノ酸, SOD1との結合領域)およびMS785 (Derlin-1結合領域を露出したSOD1のみを特異的に認識する抗体)の単鎖型抗体を発現させ, 病態改善効果を検討する系の構築を進めた. まず, CT4ペプチドを発現するAAVベクターからウイルスを作製した. これをALSモデルマウス胎児(生後1日)の脳室内に打ち込み, 5週齢までに脊髄の運動神経にCT4を発現する系を確立した. 最適なAAV血清型の選択, ウイルス投与の量・方法および時期など, 非常に多くの項目について粘り強く条件検討を行い, 運動神経特異的にタンパクを発現できる画期的な系を得た. 現在は, MS785単鎖型抗体について同様の発現系確立を進めているほか, CT4発現による運動神経細胞死の抑制効果についての検討を始めている. また, 申請書に記載したその他の研究計画についても, 下記のような成果を上げた. ・MS785の可変部に関してエドマン分解を行い, そのアミノ酸配列を決定した. さらに, 細胞内で単鎖型抗体を発現できるベクターの作製に成功した. ・亜鉛添加により構造が野生型様に戻る変異型SOD1を探索するため, MS785またはMS27 (Derlin-1結合領域を露出したSOD1のみを特異的に認識する抗体, MS785とはエピトープが異 なる)を用いた免疫沈降法のスクリーニング系を立ち上げた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の年次計画では, 1-2年目にまたがって行う予定であったAAV投与系によるCT4の脊髄特異的な発現システムを1年目の年度内に確立することが出来た点, また, その他の研究項目についても, 年次計画1年目の内容については検討が終了している点で, 当初の計画以上に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
AAV投与系によるCT4の脊髄特異的な発現システムを早い段階で確立できたため, 当初は代表的な1種類のALSモデルマウスのみで検討する予定であった個体の病態改善効果を, 複数種類のALSモデルマウスで検討したいと考えている. この研究項目を追加することで, 私たちがこれまでに明らかにした, 全130種類のうち122種類もの変異型SOD1の構造変化およびDerlin-1との結合という共通のメカニズムが, 個体レベルでも示唆できると考えている.
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