研究課題/領域番号 |
13J10909
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋中 雄太 東京大学, 大学院薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | マスト細胞 / 酸化脂肪酸 |
研究概要 |
生体膜リン脂質中の多価不飽和脂肪酸は、炎症や虚血等により産生される活性酸素種(ROS)により酸化され、「酸化リン脂質」を生成する。これまで、ROSや酸化リン脂質は生体にとって有害な因子と捉えられてきた。しかし近年、酸化リン脂質の分解産物である酸化脂肪酸が、核内受容体の活性化や、転写因子の抑制、ホスファターゼ、キナーゼ活性の阻害作用があることから、酸化脂肪酸が生理的な細胞内シグナルに関与することが考えられる。しかし、酸化脂肪酸の産生の制御機構や、実際どのような酸化脂肪酸が生理的な細胞内シグナルに利用されているのか、全く解明されていない。当研究室では、酸化リン脂質に特異的に作用し、酸化脂肪酸を切り出すユニークなホスホリパーゼ、細胞内II型PAFアセチルハイドロラーゼ(PAFAH2)のノックアウトマウスも有している。更にPAFAH2はマスト細胞に強く発現しており、ノックアウトマウスではIgE/抗原刺激依存的なマスト細胞の脱顆粒反応が減弱していることを明らかにしている。本年度では、酸化脂肪酸がどのようにマスト細胞の活性化を制御するのか、分子機構を明らかにするために、解析を行った。マスト細胞はIgE/抗原刺激を受けると、IgE受容体であるFcεRIが多量体化し、各種シグナル分子のリン酸化を経て、脱顆粒に至ることが知られている。そこで、野生型、及びPAFAH2ノックアウトマウスより単離した培養マスト細胞を抗原刺激した際の各分子のリン酸化をウェスタンブロッティング法により解析したところ、ノックアウトマウス由来のマスト細胞では、FcεRI近傍の上流分子のリン酸化が大きく減弱していることが分かった。また、ノックアウトマウス由来のマスト細胞にレトロウィルスを用いてPAFAH2を過剰発現させたところ、PAFAH2の酵素活性依存的にそのシグナル分子のリン酸化が回復した。この結果から、酸化脂肪酸がFcεRI近傍の上流分子に作用することが初めて示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通り、マスト細胞の活性化における酸化脂肪酸の作用点の候補分子が同定された。 更に当初の計画を超えて、野生型マウス由来培養マスト細胞の培養上清に、PAFAH2ノックアウトマウス由来培養マスト細胞の脱顆粒を促進する活性があることを突き止めており、今後の進展に多いに期待が持てるため。
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今後の研究の推進方策 |
現在、野生型マウス由来培養マスト細胞の培養上清に、PAFAH2ノックアウトマウス由来培養マスト細胞の脱顆粒を促進する活性があり、この活性がPAFAH2依存的であることを突き止めている。現在、最新の三連四重極型質量分析計を用い、この活性物質の同定を行っている。
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