本研究では、腸管のような粘膜組織で主要な防御機能を果たす分泌型IgA抗体を発現し、経口摂取によりShiga toxin 1 (Stx1、赤痢菌や腸管出血性大腸菌の産生する毒素) による食中毒を治療できる遺伝子組換え植物を作製することを目的としている。今年度は、「①分泌型IgA発現植物の治療効果の検証を目指した動物実験モデルの構築」、「②IgA植物抗体の精製法の確立」、「③継代による植物抗体の発現量変化の解析」について実験を行い、以下に記す結果を得た。 ①Stx1による大腸の傷害を誘導するため、Stx1ホロトキシンをマウスへ直腸投与した。活性化カスパーゼ3に対する抗体を用いて大腸の免疫組織染色を行い、Stx1による大腸上皮細胞のアポトーシスを検出した。また、Stx1に特異的なマウス二量体IgAを経口投与し、継時的に回収した糞中のStx1特異的IgA抗体価を測定したところ、経口投与5時間後に最大となった。これらの結果から、Stx1による大腸障害の動物実験モデルを構築でき、植物抗体の最適な経口投与時間が明らかになったため、生体を用いた植物抗体の治療効果の実証実験が可能となった。 ②作製した抗体発現植物のタンパク質抽出液から植物由来の夾雑物や抗体の分解物といった植物抗体の性状解析を妨害する物質を除くため、チオール親和性クロマトグラフィーによる植物抗体の精製を試みた。精製により不完全な抗体が減少、総タンパク質に占めるIgAの割合の増加が見られ、本精製法が有用であることが分かった。 ③作製した分泌型IgA発現植物(T1)の自家交配で得られたT2 から、薬剤耐性を基準にホモ接合体を選抜し、以下ホモ接合体同士の自家交配をT4まで行なった。T2 (ホモ接合体の第一世代) とT4 (ホモ接合体の第三世代) からIgAを抽出し、ELISAでIgA発現量を比較した結果、両者に差はなく世代を経ても安定的にIgAを発現できることが明らかになった。
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