本研究の目的は、細胞の膜を構成する脂質の1種であるホスファチジルセリン(PS)が、リサイクリングエンドソームと呼ばれる細胞内小器官において、どのように局在制御され、それがどのような生命現象に関与するのかを明らかにすることである。昨年度までの研究によって、「フリッパーゼ」と呼ばれる酵素が、ホスファチジルセリン(PS)を細胞質側へと局在変化させるのに必要であることは明らかになった。また、この局在変化が、リサイクリングエンドソームから細胞表面へと種々の受容体を輸送するのに必要であることも分かった。 フリッパーゼが過剰に働くと受容体の輸送は過剰になり、受容体を介した細胞応答には狂いが生じる。逆に、フリッパーゼが過度に抑制されると、受容体の輸送は細胞の欲求を満たせなくなり、細胞の生存にダメージを生じる。従って、フリッパーゼの働きの調節のメカニズムを知ることは、ホスファチジルセリンという脂質が、細胞の生存のために適切に働くためのメカニズムを知るために重要である。 そこで本年度においては、フリッパーゼの働きが、どのようなメカニズムで制御されているのかを明らかにすることを目指した。その結果、フリッパーゼは「リン酸化」という化学修飾を受けること、このリン酸化が、フリッパーゼの働きの高低を調整することが示唆された。 リン酸化は、生命において、細胞内のシグナル伝達に広く用いられる化学修飾である。フリッパーゼがリン酸化を受けて機能調節を受けることは、細胞内シグナル伝達の枠組みの中に、PSとフリッパーゼによる受容体の輸送調節が入ることを意味している。
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